
東村アキコ/私のことを憶えていますか(5)
人は自分の気持ちしか分からない。
いや、ひょっとすると、
自分の気持ちですら分からない。
だから相手の気持ちは、尚更分からない。
ただでさえ分からないのに、
時に相手に本心を悟られぬよう、
わざとその心とは違う態度を取ることもある。
そうなると、もう全く分からない。
見えている姿が本当なのか、
見えない部分に本当があるのか。
相手が心を開いてくれなければ、
真実は分からない。
本当はどう思っていたのか、
尋ねてみなければ知る術がない。
更にややこしいのは、
当の本人だって自分の心が
分からないことがあることだ。
恋をすると、
その恋心が本物であればあるほど、
心は千々に乱れる。
乱れた心同士が、相手の心を探り合う。
分かりっこない。
その時々で心は向きを変える。
真実はもはや無い。
真実と思った刹那、するりと逃げる。
主人公は初恋の人と出会う。
主人公が初恋の対象だった人もいる。
お互いを想えば想うほど、
その心は複雑に絡みあい、こんがらがる。
良かれと思った意図がかえって相手を困惑させ、
何気ない行為が相手を傷つける。
答え合わせができないのだから、
すれ違った想いは永遠に交わらないままだ。
さあ二人はどうなるだろうか。