鯨統一郎/徳川埋蔵金はここにある 歴史はバーで作られる2
マスターが変われば、
バーの雰囲気はがらりと変わる。
バーの雰囲気が変われば、
そこに集うお客さんが変わる。
お客さんが変われば、
紡がれるドラマが変わる。
お酒を愉しみ、肴に舌鼓をうち、
たわいもない会話で静かな時を過ごす。
行われる営みは同じように思われても、
そこに宿るものは異なる。
鯨統一郎が作り出すバーの物語といえば、
ヤクドシトリオや桜川東子さんが頭に浮かぶ。
無駄話がおりなす丁々発止のやり取り。
懐かしいけれど不要な知識。
そして最後に繰り出される鮮やかな推理。
ぐいっと気持ちよく飲み干されるお酒。
現実ではないのに、
記憶の中ではなじみのバーだ。
その面影を求め、訪れたお店「シベール」。
バーテンダーは二十代の美人・ミサキさん。
スツールには常連客の痩せた老人・村木。
そして歴史学者の喜多川先生に学生の安田。
学会や発表会の帰りに立ち寄る。
このバーで繰り広げられるのは、
殺人事件の推理ではなく歴史談義。
東子さんのように
ズバッと正解を答えてくれる人はいない。
歴史の大家・喜多川先生説が優位かと思えば、
自称歴史家の村木が意外な見解を出し、
ミサキさんは自由自在に説を飛び回り、
安田はそれぞれの意見に翻弄される。
新たなバーに今はまだやや違和感。
でも、やがてなじみになっていく予感。