JOE 4
さて、なんやかんやの騒がしい424号室の朝食を終えて穏やかな日曜日が始まった
今日一日何をして過ごそうかピヨピヨしたアタマを揺らしながら考えていると朝食を食べ終わったラスタが
「おぉ〜い、ジョー、温泉いかねぇかぁー」
「おっ、いいね父ちゃん!休みの日の走り始め方としては最高だ!」
「へっへっへ〜」
俺とラスタをササっと温泉に行く準備を整え、ラスタのボロボロのバンに乗り込む
ジャニスジョップリンをかけながら2人で近所の朝からやってる温泉目指して出発だ
バンの中はというとあら不思議、なんとサイケデリックなペイントでグルリと一瞬塗られてるではないか、本当は外を全部サイケデリックに塗装してメリープランクスターズのような、ジャニスジョップリンのポルシェのような車にしたかったらしいがもちろんガミガミに"ガミガミ"怒られてバンの内側だけのペイントにおさまったのであった。
ジャニスの野郎って確か、ベンツが欲しいって歌ってたくせにサイケポルシェにのってるよな
そんなことを考えが浮かんでは消えてしながら窓の外を流れる景色を時ボーッと眺めてた時にラスタがポツリと
「なぁ、ジョー、、俺の部屋に入ったか?」
ゲゲ!!マズイこれはまさかマリファナのジョイントを一本盗んだのがバレたか?
「い、いやだなぁ父ちゃん、父ちゃんの部屋なんか入らないよ、用事ないもん!」
「そうかぁ、うーーん、、どうしようかなぁ」
「ど、どうしたんだい?なんかあったのかい?」
「いやぁ、俺に似たアホな息子が心配でなぁ」
「お、お、俺だって父ちゃんが心配だよ!」
「へへへ、何やってもいいけど、人間としては終わるなよ、ジョー」
そう告げるとラスタは音楽のボリュームをグルッと大きくして前を向いて運転を再開した
自由で適当で放任主義なヒッピー家庭でよかった、ジョイントをパクったのがバレてたのかも知れないがラスタがこれ以上追求してくることもないだろう。
ラスタはいつも俺に教訓を授けてくれる。
似たもの親子の特権であろう。
しばらくジャニスを聴きながら車に乗っているとあっという間に温泉についた。
この温泉は内風呂が2つと露天風呂が1つの作りで広くも狭くもない作りだ。
受付を済ませ俺とラスタをさっそく脱衣所に向かった
脱衣所の中は日本の未来を憂うように老人ばかり、朝だからというのもあるがポツポツとした賑わいだ。
老人は皆深夜には死骸になる。
代わりに朝はとても早く行動できる。
服を脱ぎさっそく中に入っていく。
まずはカラダを流し内風呂に浸かった。
身体を包み込む老人エキスが滲み出ているであろうお湯は最高の気持ちよさだった。
死骸になっていた老人達が生気を求めて
この簡易的な極楽に集まってくるのも納得だぜ
そういえばラスタはどこに行ったんだろうかと思って露天風呂の方を覗くと小さい子供と老人1人、ラスタの3人が露天風呂に浸かっていた。
ラスタが小さいガキを弄ってキャッキャ言ってるのをみて何やら楽しそうだなと思い俺も次の極楽を目指して露天風呂に浸かりに向かった。
俺が露天の端の方にザブンと入るとラスタの声が響く
「今日のポーーーズ!!」
なんと、ラスタのやつ知らないガキを捕まえて露天風呂の休憩用の椅子の上でポージング取らせて遊んでいたのだ
アホすぎる、ここは一旦他人のフリして見ていよう。
ラスタのもつ子供のような遊び心が実際の子供の遊び心に火をつけたようでガキは大はしゃぎで遊んでいる
俺は他人のフリをして遠くからラスタとガキを見つつ、隣の少し離れたとこに入っている老人をチラリと覗いた
老人は苦虫を噛み潰したような顔でグーっと腕を組んで黙って浸かっていた
俺はマズイと思い
ラ、ラスタ!あんまりにもガキが騒ぐもんだからマズいぜこのジジイのイライラが沸騰して爆発しそうだぜ
という危険信号視線をそれとなくラスタに送った
ラスタは勘がいいのか偶然なのかガキをイジるのをやめてザバっと立ち上がってガキの頭をひと撫でして内風呂の方へと向かっていった。
遊び相手を失ったガキも、当然のようにラスタを追いかけていき内風呂へと旅立っていった。
平穏が突如として訪れる露天。
苦虫親父と俺の2人だ。
苦虫は突然大きなため息を吐き
「ハァーーーーー、ダメだ、ダメだなぁダメんなんだよ。」
俺はアタマにクエスチョンマークを浮かべる。
「おい、少年、分かるか?」
なんだこのジジイ突然話しかけてきやがってと思いつつも丁寧に対応する。
「何がです?」
「みただろ今の?ガキが遊び回って周りに迷惑がかかってるのに親は注意しない。これがこの国の憂いであり絶望だよ。
一昔前は違ったよ、知らないおばちゃんが近所で悪さしてるガキチョを怒って小突いたりさ、怒鳴りつけてただしい礼儀ってもんを教えたもんだ。
今のガキと来たらどうしようもない。
風呂に飛び込むは露天の休憩所で騒ぐは、、」
「はぁ、」
「だいたいねぇ、親が悪い、今のガキの親、横で大きな声で今日のポーーーズじゃないよ、まったく。あんな親に育てられた子供が増えるから礼儀をしらなちバカが増えるんだ!」
俺が実の息子とも知らずにこのバカジジイ、何も見えてないのはどっちだぜ
「君は、あんな大人になっちゃダメだよ、あぁ言う大人が育てる子供はロクな大人になりゃしない。バカな大人がバカな子供を育てるんだ、分かるだろう?」
「まぁ、そんなこともありますよねぇ、、だけど僕から言えることは短くて1つです」
ジジイはこちらを注視しながら眉間を歪ませる。
俺はジジイの吐息が聞こえるほど近くに行き耳元で
「俺が、、、ホントの息子です。」
といって、ジジイのアタマを子供を叱る優しい母親のように小突いた。
ジジイのギョッとした表情は効果音をつけないほどだった
ジジイはその瞬間に沸騰した湯気のように立ち登り脱衣所へと消えていった
幻はこの世にある。俺は信じる。
きっとあのジジイは幻だ。
俺は確かにみたんだ。湯気の妖精を。
そう思い空中で消える湯気ジジイを空想に変えて心の平穏を取り戻した。
その後、しばらく、1人露天風呂に浸かり空を流れる星を見ていた。
あの星に願いを。
ラスタがラスタらしくあれるように。
ガキがガキらしくあれるように
老人の亡霊が天国に登れるように。
しばらく願い。俺は露天風呂を後にして、内風呂へと向かった。
湯気の中で揺らめく不純物が俺に微笑んだ気がした。
不純物こそがこの世の中の核であり中を演出するための舞台の上の森林のようだった。
随分と知的な気持ちになっちまったぜ。
くだらねぇ
俺は、俺によく似ているアホな父親が少し心配になり、
自分の事が少し心配になった。
そして、祈りながら湯気の中に俺も消えていった
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?