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突然の大雨に3つの秘策があった 🙆♀️『大人のエッセイ』
昨日夕方、いつものように松の湯で入浴を楽しんでいると、雷鳴がして大雨が降ってきた。
この猛暑で、上空に冷気が来るとすぐに雷になるのだという。
夕立ち、というのはざっと降って1時間もすればやむ雨をいう。
こここのところの雷雨は、夕立ではない。
降りっぱなし。
夏の季節感というより、単なる気候現象、温度と湿度の調節といった塩梅で長雨になる。
今日は井上陽水……。
傘がない。
風呂を上がって、いつもの近くの中華屋に濡れながら駆け込む。
頭に手拭いを載せて「ふー、ひどい雨!」。
と言ったのは、傘を持っていないと強調したら、帰りに忘れ物の傘を持たせてくれたりしないかなあ、とささやかに期待していたのだ。
これが第一の秘策だ。
この店は5.6回目だ。
毎度、生ビールと餃子とピータンを頼む。
顔は覚えられているのではないか。
この店は安くておいしいから、毎晩のように食べに来たり、軽く飲んだりする地元の客がいる。
僕など新参者のまた入り口くらいに過ぎない。
とくに愛想はない。
傘を貸してくれるとしたら、それは日本人的メンタリティであろう。
来てみると中国人の女将だから、そういうのなさそうだ。
こちらから貸してくれというのも憚られる。
そう思っていたら、やはり最後まで傘のかの字も出なかった。
これはこちらが勝手に期待したことである。
店は何も悪くない。
こういうところって客の忘れたビニール傘が溜まっていることがある。
ひょっとしたらと思っただけだよ。
それに僕には第二の秘策があったのだ。
タクシーで帰る!
街で拾うの絶望的だから、タクシー・アプリを使う。
ふだんタクシーなど乗らないので、初めてS.RIDEのアプリをダウンロードする。
調べると、7分から長くて15分くらいで来るようだ。
ふふふ。
どうだ、アプリの威力は?
タクシーを呼びつけて帰るなどお大尽さまだぞ!
時間を予約しようとすると「できない」と出た。
これだけの雨だ。予約はできないか。
では、時間を見計らって呼ぶとしよう。
……呼んだ。
え、配車できない?
さっきの示された所要時間はいったい何なのだ!
7分で来ると言ったじゃないか。
7分が15分でも20分でもいいけど、来てくれよ。
「手配できない」とはなんだ。
一つのアプリの中に明らかな矛盾、約束違反があるのに文句を言う相手がいない。
それが現代というものだ!
こんなこと、ありがちでため息もつけない。
しかし、僕には第3の秘策があった。
高田馬場駅には地下鉄直結のCAN DOがあるのだ。濡れないで行ける。
ここで傘を買えばよい!
土地勘は身を助ける。
この臨機応変、変幻自在の対応には我ながら惚れ惚れした。
……しかし。
「傘は売り切れました」
CAN DOに何枚も貼り紙が。
おいっ!!
お前のところは在庫置き場ないんかい?
何百本でも売れそうなのに。
がっくし。
折りたたみ傘はあったが、1000円。
なんかセコそうで、買う気になれない。
ポンチョみたいなの220円であった。
これで強行突破するか?
けれど、丈が75センチしかない。
よく見ると「身長150センチまで」と書いてある。
子ども用かいっ?!
だまされて買うところだった。
かくして第3の秘策も破れた。
僕は電車に乗って雨に濡れながらアトリエに帰り、そこで傘を手に入れて無事に帰ったのだった。
秘策は不発だったが、タクシー代も使わずよかったかもしれない。