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6 使用人達の私生活 (3)

運転手―ネルも通いのメンバーの一人である。
38歳のネルには3歳年下の妻エミリーとの間に、10歳の長女を筆頭に5歳、3歳の男の子が2人。計3人の子供が居る。

屋敷から車で15分ほどの、小さな商店街を過ぎると住宅地が広がる。
その住宅地の一角に一軒家を購入して、家族5人が住んでいる。
真ん中の息子が生まれた5年前に奮発して買ったこの家は、ネルの拘りが至る所に散りばめられている。
上品でセンスの良い造りが施されている。

家を出る前も本来であれば、じっくりと眺めてから出勤したいところだが、エミリーに叱られることは優に想像できるところなので、グッと堪えて出発する。

ネルは帰宅して自宅に着くと車を車庫に入れる。
それからいそいそと玄関前に廻り、正面から我が家を眺めるのが、唯一楽しい時間となっている。
エミリーの手によって手入れの行き届いた我が家を見ると、惚れ惚れとし心がほっとするのだ。
家の中は明かりが灯され、子供達の声も時折聞こえてくるその情景は、ネルにとってこの上ない至福のひとときである。

3人の子供達の自転車を定位置に整えながら、玄関の扉を開ける。
すると決まって下の男の子2人が、飛びついて迎えてくれるのがまた堪らなく嬉しい。
さりげなく靴を整えながら、洗面所で手洗いとうがいを済ませている間も、息子たちは足元に纏わり付いている。可愛いことこの上なく、いつまでこんな風にしてくれるのだろうと、ふと寂しさがよぎることさえある。

居間に入って行くと、キッチンにいる妻のエミリーと最近料理に興味津々でお手伝い中のの長女が、

「おかえりなさい。」と言ってくれる。

仕事で学校行事などはほぼ妻任せとなっているネルにとって、バカンスだけはネルの担当である。ここで外す訳にはいかない。
バカンスの3ヶ月前から入念に家族からリサーチをし、行き先を決め、ホテルやレジャーアトラクションの手配も、全てネルが担う。
徹底的に家族の要望を織り交ぜ、全員が楽しめるスケジュールを組むのだ。

家族もそのネルの意気込みを知っているからこそ、ハプニングさえも思い切り楽しんでくれる。
ネル自身もその優しさを感じながら、とびっきりに楽しんでくれている家族の顔を見る事が、何よりのプレゼントとなっている。
体はクタクタのはずなのに、心が満たされているから、寝てしまえば疲れは一晩で消えてくれることを知っている。

マイホームと家族の事が愛おしくて、仕方のないネルなのであった。


(4 使用人達の私生活 (4)へ続く)


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