イルカはスパイになれるのか?
ノルウェーでは知られていたシロイルカの「ヴァルデミール」が死亡したという。ロシアのスパイイルカではないか、と思われていたというのだが、真相はわからない。ただ、最初の発見時に、サンクトペテルブルク製のハーネスを付けていたというので、天然のイルカではないと思われたのだ。
この記事ですぐに思い出すのが、1973年の『イルカの日』という映画のことだ。アメリカの大統領暗殺のためにイルカを訓練するという話だが、イルカの知性を利用するというのがポイントだが、監督は「ニュー・シネマ」を切り開いたとされるマイク・ニコルズ。冷戦下の緊張を描いている。
『イルカの日』は『死はわが職業』で知られるアウシュヴィッツの生き残りでもあるロベール・メルルによる作品だが、イルカが知性をもつことを重視し、『イルカの日』のモデルとなったのは、ジョン・C・リリーの一連の仕事だろう。
リリーは1960年代のカウンター・カルチャーの牽引者のひとりであり、意識をさぐるために薬物の肯定やタンクの使用といった独特の手法を採用したことでも知られる。"The Dolphin in History"は電子書籍で安価に入手できる。
イルカを扱った小説といえば、マーガレット・セント・クレア『アルタイルから来たイルカ』1967もある。イルカとコミュニケーションをとるという設定が魅惑的なのは、「わんぱくフリッパー」1964のようなテレビドラマが作られたことにもつながるだろう。とりわけメルルを意識した田中光二が、一連の海洋(海中)冒険SFを書いたのも当然だったのかもしれない。