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自由すぎる翻訳ー「狼の王 ロボ」

薄田斬雲が『少年倶楽部』昭和十三年五月号に掲載した「狼の王 ロボ」は、かなり自由な翻訳である。「動物物語」という角書きがあるが、続けて柳井正夫による「軍犬美談 愛の軍犬伝令」が続いている。他にも佐藤紅緑、南洋一郎、海野十三、佐々木邦、吉川英治、江戸川乱歩とストーリーテラーが連載小説を載せているのである。

薄田は「カランポーの谷の王様おおかみロボの首に、一千ドルの懸賞がかけられた。」と思わず物語に入り込みたくなる出だしで始めている。「再話」の極意を知っているのだろう。

一方原文は「カランポーはニューメキシコ州北部の広大な牛の放牧地である。」と土地の説明から入る。1000ドルの懸賞金が出てくるのは、全体の4分の1くらいまで進んだところだ。

The dread of this great wolf spread yearly among the ranchmen, and each year a larger price was set on his head, until at last it reached $1,000, an unparalleled wolf-bounty, surely; many a good man has been hunted down for less, Tempted by the promised reward, a Texan ranger named Tannerey came one day galloping up the canyon of the Currumpaw.

(訳)年ごとに、この並外れた狼への恐れが、牧場主たちに広まり、毎年首に懸けられ賞金が上昇し、ついには1000ドルに達した。まさに、狼の賞金として並ぶことのない額となった。多くの男がもっと少ない金に追い立てられてきたものだが、この約束の報酬につられて、タネリーというテキサスレンジャーがある日、カランポーの峡谷を馬で駆け上ってきた。

この箇所が、薄田の手になると、友人がシートンに話したという設定で、「このあいだも、テキサス州から、タンナリーという男が、おおかみ狩がりはおれにかぎると大元気で乗り込んできた」となるのだ。スピード感あふれる表現となっている。読み物書きとして薄田の才能を感じさせる。





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