最近webで引っかかったもの(2)

ヴァンダービルト大学のKristin Rose。2023年にラトガースに出した博論のアイデアがなるほど。ビルドゥングスロマンの系譜を、『ジェイン・エア』と『ヴィレット』で始めて、『フロス河の水車』ときて、そこから、南アフリカのOlive Schreinerの『アフリカ農場日記』(翻訳あり)に向かい、最後はキャリル・フィリップスの"The Lost Child"と『嵐が丘』の2つのmoorを検討する。フィリップスはリーズで育ったので、妥当性がある。手堅いポストコロニアルと帝国の論文だが、wasteに注目したことで興味が湧く。
Kristin Rose’s dissertation, "Women on the Wastes: Reimagining ‘Empty’ Environments in the Victorian Female Bildungsroman " explores how some of the era’s most prolific women writers used the imaginatively charged landscape of the “waste” or “wasteland” to reimagine narratives of development beyond expropriative notions of British “progress.”

現在の世界での修士論文のレベルを推し量れるひとつが、Marta Simeoneが2023年にイタリアのヴェネツィア・カフォスカリ大学に出した"The Ecofeminist Imagination: A Study of Virginia Woolf's Ecological Consciousness”。

”Orland"を軸にしながら、Ecofeminism, Ecocritical Modernism, The New Materialist Turnと3つの章にわたって議論を整理している。博論ではないので、リサーチが中心であるが、それだけに何が議論になっているのかがよくわかる。これくらいの批評的関心と整理が現在の最低水準となっているようだ。なかなか勇ましく始まる。そして、もはや「インターセクショナリティ」は実装されなくてはならない段階のようだ。
This thesis explores the interconnection between ecofeminist theory in its positioning within the realm of modern literary production, and will conclude with the investigation of the potential of new materialism for a viable ethical environmentalism. This analysis will build on the intersections of ecofeminism, new materialism, and modernist literature with a focus on Virginia Woolf’s novel Orlando.

アムステルダム大学のBen Moore。ディケンズやギャスケルの専門家で、これもかなりの有望株。
”Human Tissue in the Realist Novel, 1850-1895” (2023)はvivisectional novelというまとめの章があるように、リアリズム小説と生体解剖をめぐる議論を扱っている。skin論とも交差しそうだが、なかなか刺激的である。
2014年にマンチェスター大学に提出した博論をまとめた"Invisible Architecture in Nineteenth-Century Literature: Rethinking Urban Modernity" (2024)が出版される。
博論を見る限り、ゴーゴリに始まり、エンゲルスとギャスケル、そしてディケンズを経て、ゾラに至る。最終章で召喚されるのはなんと『白鯨』。そしてコルビュジエなどモダニズム建築の白さへと話を展開する。skin論のもとは博論のプロジェクトにあったようだ。

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