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gemini6rabbit
「バーバー吉野」という出発点
「ペンションメッツア」2021に森の人という役でもたいまさこが出ていた。メッツアとはフィンランド語で「森」の意味なので、荻上直子監督作品「かもめ食堂」2006を意識しているのは間違いない。「ペンションメッツア」の松本佳奈が、荻上の「めがね」2007のメーキングビデオの撮影から本格的に映画に携わったという意味でも、クロスしているわけだ。
荻上の出発点となったのが、もたいまさこが主演する「バーバー吉野」2003だろう。「吉野刈り」という髪型を町中の男の子が守らされている設定に、集団や共同体がもつ伝統という名の理不尽さを置いている。誰も疑問に思っていなかったのだが、東京からの転校生が入ってくることで、墨守すべき伝統と思っていた「ルール」を守ることをめぐる考えがゆらいでくる。
展開そのものは吉野刈りを子どもたちに施す吉野のおばさんが、同時に、下校のアナウンスもする形で権力をもっていることに、息子の慶太が反感や抵抗をしめすところにある。そして、エロ雑誌をもち、髪型を変えないことで抵抗をしていた転校生洋介と慶太の仲間の四人がしだいに仲良くなっていくところが見世物である。
緑あふれる自然のなかで描かれながら、五人が祭りでのパフォーマンス決行を目的にして、家出をしても、『スタンド・バイ・ミー』にならないところがおもしろい。タイトルの「バーバー」は、慶太が髪を染めて最後に母親に向かって吐く「ババァ」という語のために準備されていたわけだが、それが効果的に使われている。
そして、「カッコ悪い」と思われて共同体が破棄した髪型だったが、パリの最新ファッションとされる、という皮肉で終わるところが、コミカルであると同時に、この物語をメタ的に見せる。荻上のよさは、このあたりにあるのではないだろうか。