ディスクジョッキーとしてのP・K・ディック
P・K・ディックはラジオ局で、クラシック音楽のディスクジョッキーをしていたことがある。そのため、小説内にディクスジョッキーを登場させる。ディックの語りは案外ラジオ譲りなのかもしれない。
なかでも『銀河の壺なおし』にはプログラムが出てくる。曲目とCMが並ぶのだ。『ユービック』などとはまた違った趣がある。
興味深いことに、独唱ではなくて、合唱もしくは二重唱の曲が選ばれている。適当な演奏を挿入して、ディックの番組構成を再現してみた。
1 ベートーヴェンの第九「合唱つき」
CM: 脱腸帯のコマーシャル
2 ワーグナーの《パルジファル》から「聖金曜日」
CM: 水虫を治す軟膏
3 バッハの《カンタータ七八番「イエスよ、汝わが魂を」》からのコラール
CM: 痔疾治療の直腸座薬
4 ペルゴレージの《スターバト・マーテル》
[これは、冒頭の二重唱の「悲しみの聖母は立てり」]
CM: 入れ歯用歯磨き粉
5 ヴェルディの《レクイエム》から「サンクトゥス」
CM: 下剤
6 ハイドンの《戦時ミサ》から《グロリア》
CM: 生理不順の鎮痛剤
7 バッハの《マタイ受難曲》のコラール
CM: ネコのトイレ砂
どうだろうか。聖なるものと俗なるものに区別をしないディックらしい選曲とCMである。