キラキラ
前には数え切れないほどの学生や子連れの母親などが、同じものを求めて列を成している。南条美咲も友達のリサを連れて、その目的のドリンク店に並んでいた。
「Rabbit drink」とハッシュタグ付けされた投稿が、いくつもリサのスマホに流れていた。カラフルな何層にもなった炭酸ドリンクと、その上にのっかったソフトクリームに、うさぎの耳に見立てた棒状のクッキーが二本刺さっている写真が多く投稿されていた。
「やっぱ可愛いよね、今撮っておくべきっしょ」
リサは鼻をふんふん鳴らしながら、キラキラした目で投稿を見ていた。
美咲とリサの趣味は流行巡り。SNSやネットで所謂「バズって」いる食べ物や飲み物、場所に赴いて写真を撮るというもの。美咲は最初、リサに連れられていただけだったが、回数を重ねていくにつれ、最近の流行やトレンドを自分で体験する楽しさの虜になっていた。
「やば~、ココめっちゃきれいじゃない?」
リサが美咲に対してスマホの画面を向ける。そこにはSNSで最近話題になっているキャラクター、「ぶちまる」を模したイルミネーションの写真が写っていた。
「えっ、可愛いねこれ」
毛むくじゃらの猫のようなキャラクターと、イルミネーションというミスマッチ具合が逆に話題性を呼びそうだった。リサはトレンドになりそうなものを見つけるのが上手い。
「ラビットスペシャル二つください~」
注文は美咲たちの順番になっていた。
店員らしきエプロンを来た女性が、本日終了の旨を後ろの列に呼びかけている。
「よかったー、ギリギリだったね」
リサは真剣な眼差しでパシャパシャと様々な角度、画角でSNSに登校するための写真を撮っている。美咲がその様子を眺めていると、後ろの方から子供らしき泣き声が聞こえてきた。
「うさぎさんがいい! うさぎさんじゃないといや!」
四、五歳くらいの女の子が普通のドリンクしか買えなかった母親に泣きついている。
「あの、よかったらこれどうぞ」
リサがいつの間にか女の子の前に移動していた。優しい声色で、自分の分のドリンクを女の子に手渡していた。
「よかったの?」
「いいの、写真は撮ったしね。美咲と半分こするから」
戻ってきたリサはそういうと、ストローをもう一度貰いに駆けていった。
「今日も楽しかったね」
美咲は自分の写真フォルダに残った、小さな女の子にドリンクを手渡すリサの写真と、二つのストローが刺さった一匹のうさぎを見ながら微笑んだ。