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IPS実践者研究会2024 「第3回 IPS実践経験者の話」+希望について

今回は、IPS就労支援を実践としている就労支援員と、支援を受けた元ユーザー、そして希望の話になります。

前回までの疑問や感想

3回目を迎えた研修会ですが、最初に講師から今までの感想や疑問などの振返りの問いかけがありました。
受講者の1人が「挑戦」について質問をしました。就活に踏み出せない方において、その人が考える「挑戦することのリスク」は何だろう、というものでした。
 
皆でディスカッションが始まり「その人は、まだ働く意志がないのではないだろうか?」との意見に、講師が「支援員がユーザーに『働きたくないのか?』と問い続けても、結果として行動化が難しいなら、IPSなら支援の対象外となる」と返答がありました。
なぜならIPSでは1人の就労支援員の持つケースロードの大きさが20人以内と決められているからです。

IPSフィデリティ尺度(IPS-25)は、スタッフ配置・組織・サービスの3つの下位尺度を持ち、IPSモデルの8原則についての評価項目を含む25の評価項目で構成されています。IPS-25を用いることによってIPSモデルの構成要素の基準に対する適合度や、改善点に関する情報を得ることができます。フィデリティ得点の高いプログラム(機関や事業所)は、低いプログラムよりも、就労アウトカムに関してより効果的であることが示されています(Bond et al, 201

IPSフィデリティ尺度 – JIPSA

就活に踏みとどまるユーザーを1人の支援員が何人も抱えてしまっては、進行形で就活している、もしくは働き続けている他のユーザーの支援に対して、影響が出る恐れもあるからです。
 
支援員が、何度問い続けても変化が見られない場合、そのユーザーが働くことに対して阻害する要因が取り除けた時に、再度連絡を頂く形をとるようにしています。
誤解ないよう付け加えると、ユーザーを見捨てる訳ではありません。IPSでは、働きたくないと思う人はいない、という理念があります。なぜなら、働く事は誰かの役に立つことであり、誰かの役に立ちたいと思うのは、人間の根本的な欲求でもあるからです。
そのため、支援員は時には葛藤も持ちながらも、ユーザーを信じて連絡を待つこともあります。

元ユーザーと就労支援員の話

元ユーザーより、IPSの8原則のひとつである「障害の『重さ』 『不安定さ』や支援者側の思い込みなどで除外されない(Zero Exclusion)」について語られました。
Zero Exclusionには、二重否定があり、排除することをゼロにするという意味で、そこまで強い言葉を使わないと、自分のような障がい者は弾かれてしまうものだろうか、と思ったとのことでした。
 
講師は、一般的に「Inclusion(包摂)」という言葉がよく使われるが、包摂といっても、それ(想定している包摂)より外に居る人を除いた包摂になっていないだろうか、現状では足りていない部分もあるのではないだろうか、だからIPSではより強い言葉として「Zero Exclusion」という言葉を使っている、と話していました。
また、元ユーザーより「IPSでは、仮に1ヶ月で仕事を辞めてしまったとしても『働く経験をした』とプラス評価に捉えて次に進めるのが勇気づけられた」との旨の発言をされていたのが印象的でした。
 
支援員の話では、実際の就職活動において、なぜその人が就職したいのか、働いた先にどのようになっていきたいのか、キャリアや生活について一緒に考える時間を持つことを大事にしている、との話がありました。
また一緒に考える時間を持つことで支援者が気付かされることも多々あり、実際に働くことで変わっていった方を何人も見てきたと話されていました。人間の持つ可能性を実感するのは楽しいことだし、だから今もIPSを続けている、とのことでした。
 
講師より、働く上で最も大事なのは「希望」であると話がありました。決して壮大ではなく小さいことでも、経験した楽しいこと、やりがいを感じたこと、やってみたいことなどをIPSでは尋ね、それをまたやるためにはどうしたら良いか、願いを叶えるためのお手伝いをすることなのだ、と話がありました。
そして、その「願いを叶える主導権は本人にある」ことを伝えていくことが大事であることも語られ、次回の講義までにそれぞれ希望について考えて来てください、と伝えられ3回目の講義は終了しました。

スナイダーの希望の理論

アメリカの心理学者チャールズ・リチャード・スナイダー(Charles Richard Snyder)は、希望を単なる楽観主義や前向き以上のものと定義しており、「目標」に向かうための「道筋」と「主体的」な認知機能と再定義しています。

1990 年代に、アメリカの心理学者、チャールズ・リチャード・スナイダー(Charles Richard Snyder)は、希望を単なる楽観主義や前向き思考以上のものと定義した。彼はさらにそれを人の目標に向かって取り組む能力と主体感に基づいた認知機能 と再定義した。簡単に言えば、希望とは自分自身の能力とそこに到達するための潜在的な戦略を認識しながら、自分自身の未来を想像する行為である。l

【AsianScientist】Hope Labで希望の科学的理解を拡大―フィリピンのベルナルド教授|ASEANコラム&リポート|Science Portal ASEAN ASEANの科学技術の今を伝える

希望は「目標」、「道筋」、「主体性」によって成り立っているというのが、希望研究の第一人者スナイダーの理論です。[1]

希望の性質(1) 目標・道筋・主体性 – 伸展と共有の基点

支援員の話にあった「なぜ就職したいか」等の問いかけより目標を持ち、一緒に考えることによって達成のための道筋を立てる。
そして「願いを叶える主導権は本人にある」という言葉通り、本人が主体性を自覚し行動していく能力こそが、希望であると考えます。
 
次回は、11月9日(水)です。テーマは「クライアントの可能性(キャリア・願望等)」になります。
 
昨年の研修会の様子も下記のnoteに記しております。


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