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2019年イチ幸せな歌詞の話~「close your eyes」について~

私はボカロ曲10選という、その年のボカロ曲から10曲を選び取り、発表するということががあまり好きじゃない。いや他人のを見るのは好きなんだけど、自分でやるのが好きじゃない。
私は自分が気分屋で記憶力のない人間だと認識しているので、通常状態なら10選に入ったはずの曲をまんまと漏らして「10選です!」とか宣いそうだからだ。

ただ今年(ここ書いてた時は2019年でした。温めすぎやろ)は少しだけ違った。「これは絶対に2019年の上半期に出ても心に残っただろうな」という曲を見つけた。
10選はやらないけれど、とりあえずこちらのnoteでその曲を紹介することでお茶を濁したいな~と。

今回紹介する曲はこちら。



残念ながら私には音楽の素養がまっっっっるでないので、歌詞を中心に、理論もへったくれもない音の感想を絡めつつ紹介したい。
というのも、この曲を作った平田義久さんは一体何を食べてこれを思いついたのか?と思ってしまうくらい、この世の「エモ」を詰め込んだ歌詞だからだ。

まずは1度曲を聴いて頂いて。

お聴きになりましたか?

では!!

※以下、灰色で囲まれたところが歌詞部分になる。参照はニコニコ動画に投稿された「close your eyes」の作者コメント欄より。

きらきら星々で夜の空縫うオリオン座
澄んだ君の瞳に反射して輝いた 
ひらひら舞う雪は触れれば溶ける砂糖さ
永久の愛を誓うよ さあその手をどうぞ Baby

この時点でヤバい。

何がヤバいってまず韻の踏み方がヤバい。
この部分の歌詞は4行目「Baby」を除いて上と下の2行でメロディーが繰り返されている。
そのド頭に「きらきら」「ひらひら」という2音×2のリズミカルなオノマトペを繰り出してきている。しかも1行目は「星々」という2音×2のダメ押し。詞を使ってリズム感を生み出しているのだ。

「こ、こいつ…日本語を完全に"理解って"いやがる……!!」

奇数行末の「オリオン座」「砂糖さ」の「」の音で一旦メロディーが締まる点も秀逸だ。「さ(ざ)」というミクの発音がスローテンポなこの曲に早速メリハリを与えている。

さらにこの4行の歌詞に入れこまれた情報も見逃せないポイントだ。

「澄んだ君の瞳に反射して輝いた」から、
歌詞の語りは男性視点である
女性が上を向き、男性が下を向いている&2人の距離はとても近い。
少なくともこの2つは読み取ることができる。これは後述のキラーフレーズの伏線的姿勢とも言えるだろう(どう考えてもここからキスするのはめちゃくちゃ自然)。

おまけにこの男の人物造形が絵に描いたようなイケメンという点も指摘しなければならない。
「オリオン座」が「澄んだ君の瞳」に反射して輝いた、という台詞を臆面もなく使うナイスな男だ。
さらに3行目「砂糖さ」の「」は、goo国語辞典によると
「自分の判断や主張を確認しながら念を押す意を表す。」
という用法とのこと。「触れれば溶ける砂糖」という主張を言葉にして念を押すエモイケメンである。
また、英語で「Sugar」は恋人の呼び方のひとつである点も見逃せない。きっとこの2人はさぞあまやかで幸せなカップルなのだろう、と想像出来る要素が散りばめられ、この短いフレーズだけでも架空のカップルの多幸感がこちらに伝わってくる。

そしてその後の「永久の愛を誓うよ」が1番ヤバい。女の子たるもの、愛する人から1度は言われてみたい台詞ではないだろうか。
国民的アイドルグループの嵐ですら100年先までしか愛を誓えなかったのに、この男は無期限の愛を誓っている。
字だけを見ると激重のフレーズだが、前述のリズミカルなメロディーのおかげでその重たさがふわっと包まれている。
詞を無くして音無し、音無くして詞なし、とも言うべき絶妙なバランスだ。


……熱弁しすぎてガス欠を起こしてしまった。ここから先は2021年に書いている。


次に紹介するのがこの曲のメインフレーズである。

close your eyes 
one more time 
雪が積もるように

close your eyes  
one more time 
重なった唇

「目を閉じて、もう一度。」
いやいやいや、ドキドキで胸痛いわ!!!

この歌詞の動作部分は「重なった唇」という箇所だけなのに、囁くようなミクの声と「雪が積もるように」という歌詞のマッチ度が、キスの様子をありありと想起させる。
「キス」とわざわざ書かないことでキスの一瞬をありありと思い起こさせるセンスには脱帽してしまう。シンプルな歌詞のようで、この情景を何よりも雄弁に教えてくれるのだ。
この後、このフレーズが最大限生きてくる。


2番の歌詞ももちろん秀逸だ。

こんな週末は街へ繰り出そう 
ジャケット羽織っても足元は崩すのがこのごろのスタイル 
ロードショーのHypeにうんざりしてもでもみちゃうワンハリ 
初めてみつけた古着屋をマーク 流れてたトムとジェリーを観て笑う今夜
※Hype・・・〈俗〉誇大広告、刺激的な宣伝
※ワンハリ・・・「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のこと。ブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオの共演や数々のハリウッドオマージュで注目を集める。1969年のハリウッドで実際に起こったシャロン・テート事件を題材にしており、批評家の評価は概ね高いそうだ。

ここで注目したいのは彼らの生活感である。
ジャケット羽織っても足元は崩すのがこのごろのスタイル」だそうで、この歌詞(特に「この頃のスタイル」)から、お気に入りのファッションが頻繁に変化する若者であることが読み取れる。

また、「ロードショーのHypeにうんざりしてもでもみちゃうワンハリ」や「初めてみつけた古着屋をマーク」からも、洋画や古着を好むハイセンスな青年をイメージしないだろうか。特に他作品のオマージュが多い「ワンハリ」をチョイスしたり、誇大広告を誇大広告であると鋭く見定めるあたり、青年はハリウッドカルチャーにかなり詳しいと思われる。オシャレ……!

曲のムーディーな雰囲気に寸分狂いなく合わせられた歌詞によって、こちらの気分も否応なしにドキドキしてしまう。

そしてこの歌詞を一通り聴いて、読者の方はどこか思い浮かべただろうか。

私は、古着の街・下北沢が真っ先に思い浮かんだ。
チェーン店ではない、それぞれの店主が雰囲気作りに凝った古着屋が並ぶ街に青年と恋人が降り立ち、そこで「ワンハリ」の広告や「トムとジェリー」を見かけるという、デートの一幕。

歌詞に起こされた事物のひとつひとつが楽曲の主人公に結び付けられ、彼のロマンチックでハイセンスな輪郭を作り上げていく。
この楽曲がクサくないのは、彼の周りにある世界をハイセンスに描写した作者の表現があってこそだ。

しかし「トムとジェリー」のチョイスも非常に絶妙。
先程のワンハリとは違い、「1度は好きな時期もあったけど今更もう見ない」という子供向けアニメの中でも、この曲の雰囲気を損なわない素敵なチョイスだ。多分「アンパンマン」とかだったら台無しだった。
「トムとジェリー」ならば、古着屋を一緒に回っている恋人と楽しめるだろう。昔から変わらない絵柄を懐かしみ談笑するノスタルジックな光景が、この曲の「エモい」を支えている。固有名詞の使用方法として最高としか言えない。


次は、私が初めて聴いた時に思わず飲み物を吹いた2番Bメロの歌詞である。

君といればすべて変わるこの世は魔法さ 
錆びれたあのネオンさえ美しく瞬いた

あふれるこの愛の証明はできないけれど 
望むのならこの手で月だって盗めるさ Baby

あまーーーーい!!!!!!!

これに言及したいがためにnoteを書いていると言っても過言では無い歌詞がここの

「望むのならこの手で月だって盗めるさ Baby」

という箇所だ。

これは私の想像だが、この歌詞はエリック・カール作「パパ、お月さまとって!」を意識しているのではないだろうか。

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娘から「パパ、お月さまとって!」とお願いされたパパは、試行錯誤を重ね、大きなハシゴを使って幾日も空を昇りお月さまの元へたどり着く。しかしその日は満月だったため、大きすぎて持って帰るのは難しい。そこでパパは空の上で半月ほど待ち、三日月になって小さくなったお月さまを娘に持ちかえるのだった…。という筋書きである。


苦労に苦労を重ねて娘のワガママを叶えようとする父親の根底には、娘に対する誰にも負けない愛情がある。父親にとって娘とは、この世の全ての女性よりもはるかに可愛いお姫様であり、父親とはお姫様を守る騎士であるに違いない

この物語をなぞって歌詞が書かれたのであれば、主人公の心意気が見て取れる。青年は恋人と一緒に居られて途轍もなく幸せであり、恋人の幸せのためならあらゆる困難も乗り越えて願いを叶えよう、という前向きな決意が溢れる幸せな歌詞である。
さらに、前述の通り念押しや強調の意味を持つ「」が再び登場してくる。浮き足立ったBメロの最後に、恋人を幸せにするという固い決意がたった一文から滲んでくることで、リスナーにこの青年をより王子様として認識させる力がある。
この曲のドロップの爆発力に説得力を持たせる上で、これ以上ないほどに練られた詞であると言わざるを得ない。

ここからあのあまやかで鮮烈なサビに移るのでニクいとしか言いようがないが、さらにニクいのが次の一節である。

FunkyなStepで跳ねるこのMore Up Tempo 
SpaicyなRifに支配されて 
Bambiみたいに跳ねるきみ Take Me On Bed

先程とは打って変わって、スネアの主張が強いリズミカルなリフに変化し、まさに「Funky」で「Spaicy」なリズムを刻んでいる。ここで「Spaicy」という単語を選んだ作者は天才だと思う。

そして忘れてはいけないのが最後の「Take Me On Bed」というフレーズ。
命令形で書かれているので、「私をベッドへ連れて行ってほしい」、これが女性側の強い要望だということが読み取れる。

情緒とドキドキがありすぎてえぐい。

アルコ&ピース平子氏の言葉を借りるなら、「こんなもんめちゃくちゃセックス」である。
上目遣いも萌え袖も勝てない、女の、女としてのしなやかでハッキリとした自我がここにある。これではこの青年が惚れてしまって当然だ。


余談だが、この「Take Me On Bed」というフレーズ。
一見すると一般的な英文だが、実はこの文に非常に良く似た有名なフレーズがある。

それが、
Take me to bed, or lose me forever.
というものだ。 (このフレーズは、take me on bedと検索すると1番上に出てくる)

これは訳すと
早くベッドへ連れて行ってよ、さもなくばこれっきりよ
という、ハリウッド映画「トップガン」の中に出てくるセリフである。
そう、ここでもハリウッド。先程の「ワンハリ」の伏線をさらりと回収する、固有名詞の扱いの妙が際立つ。(でも多分偶然だった可能性の方が高そう)


そうして愛を確認しあった後、またメインフレーズを繰り返す。
1度目、2度目、3度目のフレーズの中にある主人公の思いが刻々と僅かずつ変化していく様が丁寧に描写されているため、ワンフレーズで3度美味しい。


この曲は、1人の青年の生活を通して、愛と、それに付随する決意を描いた作品なのではないだろうか。
Mellowという(ボカロ内では)前衛的かつ飛び抜けて洒落ているジャンルに相応しい人物と風景を用意し、詞と曲のバランスが完璧に整えられている。名曲と言って差し支えないに違いない。



歌詞の良いところがありすぎて頭の中が散らかり、休憩して、1年半かけてようやく完成した。信じられないくらい時間がかかったが、言いたいことは概ね言えたような気がする。
何が言いたいかというと、

マジでこの曲最高だから聴いて!!!

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