留学しちゃう?視覚障害者のための大学 RNC
社会福祉士であり視覚障害リハビリテーションワーカーでもあった(※いつの間にか過去形 笑)筆者がイギリスの視覚障害者支援について2018年に視察研修したことを書いています。11回目はイングランド西部ヘレフォードにある視覚障害者のための大学The Royal National College for the Blind (RNC)を見学した話です。
視覚障害者のための大学は日本にもあることをご存じでしょうか。正確に言うと、視覚障害または聴覚障害があることが入学条件の大学が茨城県つくば市にある国立大学法人 筑波技術大学です。視覚障害学生は鍼灸や理学療法、情報システムを学べます。視覚特別支援学校(盲学校)もそうですが、視覚障害の身体障害者手帳を取得していなくても目の見え方によって受験可能です。
イギリスのRNCは学生の年齢は16~25歳、定員は80名。留学生や65歳までの成人研修生も受け入れています。訪問時はインドやデンマークからの留学生がいました。ほとんどの学生は入寮し、年齢によって建物が分かれます。イギリスは18歳以上は飲酒ができるからそこで分けるようです。学費や食費は全て福祉サービスとして学生の住民票がある自治体が負担します。そのため地元自治体は多額の費用が必要なRNCよりも一般の大学への進学を勧めるケースがあるそうですが、一般の大学に進学した視覚障害者が授業について行けずRNCで学びなおすケースも多い、と聞きました。
進学に関して、イギリスの普通校に視覚障害児は一人しか在籍していない事が多く、学校生活が上手く行かずメンタルの問題を抱えてしまう生徒が多い事が問題になっているようです。RNCに来て「友達ができてうれしい!」と言う学生は多く、RNCは自信をつけて社会に飛び立つための力をつける場になっています。
イギリスの大学の学部は一般的に3年制ですが、RNCのコースは2年制で優秀な学生は1年でコースを修了し他のコースを選択する事が可能できます。どんなコースがあるかというと、語学や数学、スポーツ等の学科、IT・スポーツマッサージ・陶芸・舞台芸術等の職業訓練、点字や料理技術といった日常生活訓練等、自分が学びたい分野を幅広く選択する事ができます。ちなみに以前は日本語を学ぶクラスもあったそうです。いろんなコースがある中でもオーディオメディア制作コースは人気で、サウンドエンジニアリング、音楽制作、ラジオやテレビの番組制作等を学ぶことができ、卒業後は放送業界での就職を目指します。
学内にはThe Chapelというシアターがあり舞台芸術コースの学生の発表に利用されています。The Chapelの運営はチケット販売から開演時のドリンク販売、音響等全て学生が行い、職業経験を積む場としても活用されます。
RNCはスポーツ活動も盛んです。ブラインドサッカーのイギリス代表チームの本拠地として利用されており、彼らはプロアスリートとして収入を得る事で生活しています。地域に開放された一般向けのスポーツクラブも経営しており、そこから得られる収益は学校運営に役立てられています。
この視察を行った2018年は2020年東京パラリンピックを直近に控えた時期。そこで急遽学校側の計らいで、視覚障害スポーツであるゴールボールのイギリス代表として東京パラリンピック出場を目指す2名の学生さんに昼休み中の短い時間にインタビューさせていただきました!!ちなみに当日の学食メニューはフィッシュ&チップス!ああイギリスらしい。時間なさ過ぎて無理でしたが食べたかったなー。
1 アントニアさん(18歳女性・弱視)
スポーツマッサージコースの1年生で将来はスポーツトレーナーやコーチを目指している。ゴールボールは2年前から始めた。スポーツや生活スキル向上のために一般大学ではなくRNCへの進学を選択。これまで単身生活をした事がなかったため寮生活でいろんな生活技術を練習中。
2 ジョーさん(20歳男性・弱視)
スポーツマッサージコースとスポーツジムコースを修了し、現在はビジネスコース受講中。将来は、4年前にRNCを卒業した兄と共にスポーツマッサージの会社を経営したいと考えている。高校までは友人ができず、ひとりで家でゲームをして過ごす事が多かったが、RNCに進学してから友人もでき、スポーツも始めた事で充実した生活をしている。
Q.イギリスの若者は白杖についてどう思っているの???
お二人の答えの前に。
RNCでは入学時から学生に対し、白杖の使い方や駅等の街中の主要箇所への単独移動方法を指導します。そのためRNCのあるヘレフォードでは他都市と比べて街中で白杖使用者を見かける事が多いようです。白杖を使用することはとてもデリケートな問題であり、支援者が安全面が向上する等、利点をどんなに説明しても本人の気持ちが動かなければ白杖を日常的に使ってもらう事は難しいです。支援者もがんばりますが最終的にはご本人次第。
そこで思い切って二人に白杖について率直な気持ちを伺うと、アントニアさんは「あまり好きではない。普通校で使うと目立つので使っていなかった。今は日が暮れるのが早い冬によく使う。駅で使うようにしている」、ジョーさんは「入学した時は持ちたくなかったが自分の為に持つようになった。今でも好きではない。普段は使わなくても歩けるが、周りの人の事も考えて夜間や駅で使う」と答えてくれました。
複雑な心境を覗かせながらも、自分の身を守る為だけではなく周囲の人への注意喚起としての白杖の機能を理解して使用している点はRNCでの指導の成果だと感じました。
「夜間に使う」「駅で使う」という自分が見えにくいシチュエーションでピンポイントで使用するというのもいいと思います。
さて、アントニアさんとジョーさん。Goalball UKのウェブサイトを見たところイギリス代表として活躍されているようです。すごい!Congratulations!
最後に、17歳まで青森で暮らし、日本語が話せるICTコースのエスター先生とお話ししました。
授業で使う機器はパソコンで、タッチタイピング、スクリーンリーダーJAWSやNVDAの使い方、拡大ソフトZoomText、ネット検索の仕方、就職用ネットフォームの記入方法、ショートカット、Word、Excel、Outlook、Publisher、PowerPointとPowerPointに組み込むためのオーディオファイル操作、Wordpress、イメージ加工などなど、多岐にわたっていました。このコースについて先生は「very job focus」と言い、就職に向けた、そして就職後のことを見据えたコースのようです。イギリスでも人気のタブレットやiPhoneの使い方を教える先生は別にいます。
エスター先生自身、視覚障害者へのITの指導方法はOJTで覚えたとのこと。私もです!!分かる~。
これまで日本人留学生が在籍していたかどうかは聞きそびれてしまいましたが、進学先の選択肢としてRNCもいかがでしょう?