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善児とエウレカ(2022)


(「鎌倉殿の13人」「交響詩篇エウレカセブン」「レオン」のネタバレを含む記事です)

 先週のことで申し訳ないのですが、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でのあるシーンのことをここ最近ずっと考えていました。それは、暗殺者の善児が範頼や他の人々を殺した中、一人の少女だけ殺さなかった、というものです。鎌を構える少女の中に自らと同じものを見て取った……のかはわからないですが、印象的なシーンでした。
 これを見て思い出したのは、「交響詩篇エウレカセブン」のエウレカです。ヒロインのエウレカはどことなく浮世離れした少女ですが、実はいろいろなものを背負っています。そして孤児たちの母親代わりをしていますが、実は彼らの親を殺したのはエウレカなのです。
 エウレカは子供たちに親殺しを知られていないと思っているので、善児とは少し違います。彼女は子供たちを飛行船の中で育てていますが、子供たちが自らと同じように戦うことは望んでいないと思います。それに対して善児の育てる孤児は、どうやら暗殺者になっていくようです。
 孤児が暗殺者を継ぐ、というお話では「レオン」を思い出す人もいるかもしれません。しかしレオンはマチルダの親を殺したのではなく、彼は彼女を常に「助ける人」です。それに対して善児やエウレカは子供たちの仇です。
 エウレカは登場当初は感情の読みにくい、とらえどころのないキャラでした。実は私は、ヒロインとしての魅力をあまり感じられませんでした。しかし彼女の抱えているものは想像以上に大きいことが、物語が進むにつれてわかってきます。そしてそれを救えるのは確かに主人公なのです。戦士として母親として、役割を担うことで何とか自らの存在意義を作り出そうとする彼女に対して、主人公は「美しさ」で惹かれるのです。顔から好きになるというのはしばしばネガティブにも思われますが、主人公は「見たままのエウレカ」の魅力を認めるのであり、それは彼女にとって必要なことだったと思うのです。
 歴史を描くドラマにおいて、善児は架空の人物として登場しています。そのため彼に関しては、資料から人となりを知るということがありません。しかし彼にも確かに、なにがしかの背景があるはずなのです。多くの視聴者にとって彼は「凄腕の暗殺者」でしかありません。彼もそのように生きることを受け入れています。しかしそんな中で少女を生かし、その少女に何を見抜かれるのか、それが私はすごく気になるのです。そしてそれは、歴史に名前の残らなかった人々が「確かにいた」ことを私たちに知らせてくれます。
 今日の放送でついに頼朝が亡くなりましたが、そこに善児は関わりませんでした。偉大な征夷大将軍は、誰かの策略ではなく、暗殺されたのではなく(本当にそうなのかは来週以降も見ないとわかりませんが)、運命に導かれるように病気で亡くなりました。さすがの善児も「歴史の主人公」までは殺しませんでした。そこはなんとなく、脚本家の線引きがあるような気がします。もちろん暗殺された可能性もあるわけですが、それを描くにはもっと準備が必要だったでしょう。今回の大河では、頼朝は殺されそうになるたびに運よく助かってきました。今日ももちをのどに詰まらせそうになりながら、何とか助かっています。そんな彼も、(おそらく脳卒中か何かだと思うのですが)病気という定めの前にはどうしようもない。役割の終わり、そして寿命。見事な最期の描き方だったと思います。
 この歴史上の偉人に対して、善児は架空の身分の低い男にすぎません。しかし彼にもまた、運命が待ち構えているはずです。自ら命令を下し多くの命を奪った頼朝に対して、命令されるままに命を奪っていった善児がどのような最期を迎えるのか、興味があります。おそらく彼が唯一助けた者が、なにがしかの意味を持つと思います。
 エウレカには主人公がいたため、物語の中で助けられて成長していくことができました。しかし善児には、助けてくれる存在はおそらく描かれません。それでも少女の親代わりをしていく中で、何かが変わっていくはずです。それでいて、彼が幸せに静かに暮らしていくという未来は想像できません。
 善児がどんな報いを受けて死んでいくのか。そこに少女はどうかかわるのか。そんな残酷なことを想像しながら、今後も「鎌倉殿の13人」を見ていくことになると思います。


初出(2022)善児とエウレカ - 妖精が見えない日に考えること(創作エッセイ)(清水らくは) - カクヨム

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清水らくは
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