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「百万円と苦虫女」と秩序(2023)

(注)ネタバレを含みます。

 観たけれどジャンルのわからない映画があって、調べたら「ロードムービー」とあった。お金を稼いで移住を繰り返す内容の場合、そうなるらしい。

 始まるなり、主人公はよくわからないうちに好きでもない人と同居することになり、前科持ちとなる。観ている人にとって魅力的かもよくわからないうちに、「みんなと居づらい人」になるのである。そして、「百万円を貯めたら次の土地に行く」と決めて家を出る。土地を移るだけで、旅をしている感がなかったので「ロードムービー」とは思わなかったのだ。

 この作品では、「何が正しいのか」を何回も問われる。主人公の怒りには共感する。しかし、彼女がとった行動は犯罪だった。正しくはないのだが、すべて間違っていると言い切れるほどなのか? 彼女が住むことになる土地では、様々な出来事が起こる。彼女はそこでは、だいたい巻き込まれる側である。彼女が前科者であることで、物語は「その土地で自分を見つけた」ようにはならない。そもそも彼女の目的は百万円を貯めることであって、何かを見つけることではないのだ。

 田舎に行くと、主人公はどうしても目立ってしまう。何と言っても蒼井優なのだ。彼女はただ100万円貯めたいだけかもしれないが、住人にとっては降ってわいた宝物なのである。そして宝物の扱い方を多くの人は知らない。そのために秩序は混乱する。見ている側は秩序の乱れた土地だと感じるかもしれないが、よくよく考えれば主人公がいなければ波風は立っていないのだ。

 最初の同居人ともめるシーンから、徹底して主人公はよそ者なのである。そしてよそ者にとって、他者との関係を成立させるには「お金」が重要なのだ。彼女は最初に、激情により同居人にお金を損させてしまった。それで前科を背負うことになったのである。そんな彼女にとって、情を持つことは重要ではなくなったはずだ。様々な土地の秩序(それ自体が正しいかどうかはともかく)を乱しながらも、「百万円貯める」という目的だけを頼りに彼女は生きていくのである。 

 そう考えると、この物語はやはり主人公の成長を描く面もあるのだ。そんな彼女にとって、「自らの力で稼げる」「どこにでも行ける」のは、自分を肯定するために重要なことだっただろう。しかしそれは、リセットできない事実から逃げ続けることでもある。

 私はこの映画の結末が好きだ。完全なハッピーエンドと言えるかはわからないが、主人公は幸せになっていくのだろうという予感がする。

 この物語は、観ている人がどのような秩序を大事にするのか、どれぐらい秩序を大切にしているのかがわかるものでもあると思う。「そりゃないよー」とか「そこはルールを破ってもー」と私も確かに思うのだが、「でも、決められたことは守らないとね」という納得感もある。惜しむらくは、タイトルからそういう中身が推察できないことである。未見の方は、ぜひ視聴してみてください。

参照 タナダユキ「百万円と苦虫女」(2008)

初出(2023) 「百万円と苦虫女」と秩序 - 妖精が見えない日に考えること(創作エッセイ)(清水らくは) - カクヨム

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清水らくは
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