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交流していた漫画家が漫画家をやめた話(2021)
昔、好きな四コマ漫画家がいた。そこそこ大きな雑誌で連載していた。当時はmixi全盛期で、私はその漫画家のコミュに入ったのだが、人数は30人ほどだった。本人もいた。しかも掲示板などを見ると、メンバーの大半は顔見知りのようだった。私は仲間に迎え入れられ、真似て描いた私の絵がコミュのトップ画像になってしまうなど、不思議な状況になった。
その漫画家からもマイミク申請があり、普段からやり取りをするようになった。漫画家と知り合いになれて、テンションが上がった。だが、その漫画家の日常は決して「憧れのプロ生活」とは言えなかった。
四コマ漫画はなかなか単行本を出す量に至らない。単行本が出せないと、漫画で生活費は稼げない。ホテルでバイトをして、そこで知り合った女性と付き合い始めて、その人は漫画家をやめた。
ショックだった。あんなに面白いのに、もう、見られないなんて。
しかし冷静になると、そういうことは嫌というほど知っていたのだ。好きになった小説家の次作が出ない、なんてことはいくらでもあった。別のコンテストの一次選考通過者の中に、その名前を見るなんてことも一度ではない。あの冲方丁ですら、しばらく出版できない時期があり、「もう出ないのかなあ」なんて思っていた。
知っていたのに、「プロの漫画家はすごいなあ」と思っていたのである。自分がかかわらないジャンルに、幻想を抱いていたのだろう。一度プロになれれば、ある程度は安泰だと思っていた。
その人が、今どうしているのかはわからない。もう一度漫画を見てみたいが、作風などが変わっていれば見つける自信はない。再デビューするとしても、名前を変えている気がする。
ツイッターに投稿して注目もされる現在ならば、あの人の状況は違ったかもしれない。タイミングが違えば。時代が違えば。
たまに思い出しては、色々と考えるのである。
初出(2021)交流していた漫画家が漫画家をやめた話 - 妖精が見えない日に考えること(創作エッセイ)(清水らくは) - カクヨム
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