太宰治を描いた青春文学
太宰は、泳げない。僕は、すっかり欺かれていたようだ。鎌倉で起こした最初の心中未遂を書いて太宰は、「自分たちは海に投身したが、己は水泳ができたので助かってしまった」という風だ。これを真に受けた従順な読者であった。しかし、仲間と和舟に乗った際、明らかに怯えているが外形を取り繕う太宰をからかって櫓をこぐ速度を高めたところ、舟の縁にしがみつきながら太宰が「おれは泳げないんだよ。おれは金槌なんだ」と白状した挿話を『人間太宰治』に発見して、自分の誤認を正すことになった。「海に投身」とい