見えないサチモスが「ぐっない」してくるんです。
前回までのあらすじと好きな色
小説家デビューを果たした人間がnoteを始めたはいいが「マクドナルドに行っただけの話」をわざわざ前後編に分けて書いてしまう。水色。
「ステイチューンの場所」ではしゃいだのが敗因。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。今回でようやく「デビューしっぱなし貧乏作家が何して生きているのか」本編に入ることが出来ました。引き続きおつきあいのほど、よろしくお願い申し上げます。
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新しくスタッフとして参加させていただくラジオ番組の打ち合わせのため、
勇んでJ-WAVEの中へと入り、そこで面食らいました。
のっけからサチモスの『STAYTUNE(ステイチューン)』の、現場です。
知ってはいましたが、まさかそこまで「1歩」とは思いませんでした。
ただでさえヒルズで浮ついていた心はなお昂ぶり、熱心なファンでもないくせに初めて蒸気機関車を見た江戸人のような興奮を覚えました。
思わず番組プロデューサーさんに「ステイチューンの場所じゃないですか!」と喋りかけたところ、ここまで満面の笑みだったお顔に僅かばかりの翳りが生じました。鮮明に覚えております。その表情からは、仮にも同業であるはずの人間が本来持ち合わすべきリテラシーの欠如に対する落胆と、何百回も言われてきたことが容易に推測できるであろうことなお平然と口にする浅はかな人間への憐憫が見受けられました。
のっけからやってしまいました。
自らの軽口を恥じて反省するも、被害妄想はぐんと加速。
頭の中で静かに流れていた『STAYTUNE』の音量はぶち上がり、プロデューサーだった筈の人はボーカルのヨンスに変わり、受付にいた綺麗な女性もまたヨンスに変わっており、先ほどまでいなかった他のメンバーも現れ、僕を取り囲んで演奏を始めると、ヨンス達は例のハイトーンで歌い出しました。
俺の全てが「ぐっない」されていく。
耳を塞ごうにも頭の中で流れているもんですから為す術がありません。
僕が生み出したヨンスは無限に増え、『STAYTUNE』を歌い続けます。
ーブランド着てるやつ もう good night
着ていない。よく見てくれ。高校時代にアベイルで買ったジャージなんだ。
それにまだ寝ない。これから打ち合わせなんだ。
ーMで待ってるやつ もう good night
さっきまで居たマクドナルドのことだろうか。そこしか場所がなかったんだ。しょうがないじゃないか。昼の3時なんだ。まだ寝たくない。
ー頭だけ良いやつ もう good night
存在しないサチモスを勝手に作り上げて、挙句「ぐっない」されている奴の頭が良いわけないだろ。初対面のプロデューサーさんの前だ。消えてくれ。
ー広くて浅いやつ もう good night
悪かった。確かにマクドナルドでヤフートピックスを手当たり次第クリックし、「地域」の欄まで読み込んでいたが時間を潰したかったんだ。
ー風船ばっか見飽きたよ うんざりだもう
これは、ちょっと、わかんない。うんざりなのはこっちだ。
その後も「100円ショップでバオバブ買うやつ」「常に指先にドリトスの粉ついているやつ」「youtubeで懐かしいCM集ばかり観るやつ」「元テレビ戦士のツイッターばかりフォローするやつ」「伏線回収を勘違いしているやつ」「プロデューサーの表情を無駄に深読みして傷つくやつ」と想像上のヨンスはこれまでの僕の所業をことごとく「ぐっない」してくるのです。
これから打ち合わせだというのに、こうも寝かしつけられてはたまったものではありません。
「ぐっない」された今、皆様にお伝えしたいこと。
気合を入れて臨んだはずが、目を覚ますと僕は布団の中にいました。
あたりは真っ暗。隣では奥さんとなる人が寝息を立てています。
こんな風に職場での妄想が実体をもちはじめてしまう人間でも、
スタッフとして置いてくれる素敵なラジオ番組が毎週水曜日深夜2時30分から放送中です。どうか長い番宣だったということにさせてください。プロデューサーさんにこの文章が見つかり「ぐっない」されたくないのです。