荒井由実の「ひこうき雲」#41
中学時代、体育の授業で体操があった。
マットレスを敷いて前転、後転、側転とかするやつ。
かったるいと思うrakudaだった。
「よし、じゃ、M、ちょっと見本演技をやれ」と先生が言った。
Mは体操部だ。先生ができないからじゃないのか?とひそかに笑う僕達。
Mは「はい!」と元気よく立ち上がると、前方を見つめてそして、目を閉じて深呼吸した。
そして、タンタンタンと床を飛び跳ねるように走り出すと、側転からのバク転。さらに今度は手をつかないバク天。後にこの技をバク宙ということ知る。
「お~~、かっこいい!!!」
「M すごいなぁ~」
生徒たちは感動した。日頃、おとなしくて目立たないタイプのMはまさにこの日からヒーローとなった。
rakudaはMにスリスリした。
あの授業で見せてもらった技をやってみたくなったのだ。
自分が側転からのバク転をする姿を想像してrakudaはワクワクした。
体操部の練習を見学させてもらうようにMに頼み込んだ。
「しかたがないなぁ、毎日はやめてくれよ」とMは渋々ではあるが了承してくれた。
先生がいない時は部員に混じって練習もした。
体育館で躍動する生徒はキラキラしていた。
特に鉄棒。ぶら下がって、前後に身体を揺らし、勢いがついてくるとそのままグルグルと廻る。
おったまげ~~の rakuda。
大車輪という技らしい。何周かすると、手をパッと、空中で1回転して着地。アングリ、開いた口がふさがらない rakuda。
大車輪からの後方宙返り。
かっけー!!
「あれをやらせてくれ」とMに言いよるが
「マットの上での宙返りが先」
と相手にされず。
いつものように体育館を覗く。すると、その日は今まで見たことがない、ちょっと高くて細い棒の上で女子がなにやらやっていた。
平均台という競技で女子にしかないそうだ。
ふ~~ん、あんな、幅が狭いところですごいなぁと見ていたら、平均台にひとりの女子があがった。その立ち姿、美貌にrakudaはキュンとなった。
彼女は、平均台の上を、すすすっと歩いたり、時にはステップ、時にはジャンプ、そしてターンしてポーズをとっている。
「おいM、あの子誰?」
「あ~、彼女綺麗だよね。Yさん」
「何組?」
「たしか、〇年〇組だったと思う」
おおっ、同級生じゃないか!
そうか新館のクラスだからあんまり会う機会がなかったのか。
Yさんは、ちょっとクールな感じの美人さんだ。
凛とした雰囲気が漂ってくる。
容姿が美しいだけでなく、自分の考えをしっかり持った女性、ある種、気品のようなものさえ感じられる。
平均台を降りたYさんは、安堵からかニコリと一瞬微笑んだ。
その微笑みがまるで自分に向けられたような気がして rakuda は恋に落ちた。
夢にまで見るようになったYさん。もはやバク転どころではなく、体育館に行く目的はYさんを見ることになってしまった。
現代ならストーカーだと云われてもしかたがない。
悶々した日々を送ってる rakuda に一筋の光明が差しこんだ。
それは体育大会でフォークダンスがあるということだった。
思春期の男子が、肩を組むようにして女子と手を繋いで踊るのだ。
ワクワクドキドキものだが、ダンス自体は非常に恥ずかしい。
特に、相手が変わる前のステップと
「は~~い、そこでにっこり笑ッてぇ~~」
「無理っ~~!!!」
が、相手がYさんだとしたら…
今はクラス二組で練習しているが、もしかしたらYさんと踊る?
いやいや、これは手を繋ぐチャンスではないか!
rakudaの胸ははずんだ。
rakudaが考えた作戦はこうだ。
体育大会までにM経由で〇年〇組の rakuda という存在をYさんに伝える。
rakudaが出る競技を見てもらう。
競技で活躍する。
フォークダンスで告る。
というもの。足の痛みもなんのその、rakudaは必死に走り込んだ。
なんといっても徒競走とリレーが盛り上がる。
リレーで、Yさんのクラスの走者を抜いて、テープを切る。
そうすれば、絶対 rakuda の存在に気づくはず。フハハ。
そして、ついに体育大会当日。フォークダンスの時間がやってきた。
Yさんはどこにいるんだろう?同じ、輪の中にいるんだろうか?
いたぁーーーーーーーー!!!
おおっ、なんとラッキーな。神様ありがとう!
グルグル廻っていくあいだにチラ見するrakuda。
心なしか、Yさんも何か照れているようだ。
うつむいた顔が少し赤いような?気のせいか?
オクラホマ・ミクサーが流れる中、見上げた空にひこうき雲が走っていた。
あと、5人でYさんだ。
4人
3人
ふたり
ひとり…
よかったらお時間がある時にでも聴いてください