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また着物を着たいナ

通訳ガイドのぶんちょうです。20代のころ、いわゆるOLをしていました。会社に着物の先生が2人いらして、着付けを一定期間教えてくれました。

半年か一年くらいの短い期間でしたが、学校の放課後の部活のように就業時間後に1時間くらい、空いている部屋を使って20人くらいが集まってやっていました。当時、社内に畳敷きの部屋があったのです。

始めたきっかけは、同じビルのなかをエレベーターで移動するだけで習い事ができるので便利だったからと言う、その時の先生には言えない理由です。もしかしたら、母が沢山着物を持っていて和裁もやり、ちょっと影響されたのかもしれません。

今はガイドとして、茶道はね、華道はね、などと知ったようなことを言っていますが、当時の私はそういう女性らしい落ち着いた雰囲気の和風習い事には一切興味がなかったので、私が着付けを習うと言うと母に「どういう風の吹き回しだろうか」という顔をされました。

私は不器用で、着物教室ではついていくのに苦労しました。こんなに難しかったのか着物って!実は、母に着方を習って中学の時はよく一人で着ていました。冬休みに毎日着ていると楽しくなり、学校が始まってからも帰宅するとすぐに着物に着替えていました。帯はすでに形ができているものをさっと挿すだけの簡単なものだったので、洋服感覚で3分もあれば着ることができました。カップヌードルです。

でも着付け教室は違いました。麺打ちから始めるこだわりのラーメンです。それはもう丁寧に着ていくのです。まず着る前の前準備からして違います。着物というのは、身体に凹凸がないほうがきれいにみえます。だから凹凸をなるべくつぶして、体を茶筒のような円筒形に近づけます。

その意味では、私の体型は和装の理想に近いと言えますが、それでも多少のへこみにタオルやら綿やら詰めこんで地ならしをします。それからやっと下着に当たる長襦袢にとりかかります。この下準備によって、着物に無駄なシワが出ないので本当に美しく着ることができるのです。

着物は洋服のように体の形に沿って布を丸くカットしたりすることない基本的に直線的構造なので、人間の体にフィットさせるのは技がいるわけです。デパートの店員さんが、円筒のものをたった一枚の二次元的な紙を使って見事に美しく包装するのと同じかもしれませんね。

そして、着物も折り目に合わせたり、おはしょりもシワが出ないように手刀を切るように。みんなで一斉に説明を聞きながら着物を着ていきました。「はい、では左手は着物を押さえた状態で床のひもを手に取ってください」と先生。

え?ひも、どこだ?しまった、かばんから出すのを忘れてた。左手はふさがったまま右手だけで中腰でかばんの中をまさぐる私。あー、もう遅れを取ってしまった。そんなことばかりでしたが、卒業試験では、ちゃんと着物も着られて、帯も二重太鼓までできるようになりました。同僚の結婚式にも自分で着物を着ていけるまでになりました。ばんざい!

ところがその後、着物のコンテストにまで出ることになったのですが、そのコンテストで大失敗をやらかしました。そして今は、浴衣の着方を外国人に聞かれて、あれ、こっちが前でよかったよねと心の中で再確認しなければならないくらい情けない状態です。

でも「いつか粋なゆかたを着て夏のイブニングツアーかなんか、やってみたいな」なんていう夢は捨ててはいないのですけれどね。


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