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場の空気が変わる時

通訳ガイドのぶんちょうです。
公共のバスの中のことです。

その夕方のバスは、立っている人の肩が触れ合う程度、混雑していました。

ワンマンバスだから、中の乗客が扉に近づき過ぎているとビーッとブザー音が鳴り、ドアが開かないようになっているようでした。

停留所にバスが停まる度に誰かがドアに近づき過ぎて、ビーッとなっていました。

止まってはビーッ。
止まってはビーッ。

運転手さんが、ドアから離れてくださいとマイクでアナウンスします。

それでも、ビーッ。

毎回いい加減にしてほしいなと私は密かに思いました。

ドアが開くのに余計な時間がかかり、バスの中の雰囲気も何となくイライラしたものになってきました。

ビーッ。
またか、と思った時、

運転席の近くにいた女子学生が、ケラケラと笑ったのです。

その笑い声は運転手さんのマイクに拾われ、車内全体に流れました。

イライラしていたバスの雰囲気が一瞬、緩んだと思ったら、今度は運転手さんもこらえきれず、アハハと大きい声で、笑ったのです。

マイクを通して、その笑い事は乗客みんなの耳に届きました。何とも可笑しくて仕方がないと言う笑いです。

そして次の瞬間、面白いことが起きました。

車内のみんなが、つられてどっと笑い出したのです。

公共バスの中です。お互い皆んな知らない人同士です。

私も笑いながら、他の人の表情を観察しました。声を出して笑っている人。顔だけで笑っている人。知らない同士で顔を見合わせて笑い合っている人。

色々いましたが、みんな笑顔でした。ちなみにこれはコロナ前の話ですから、マスクはしていません。

一瞬のできごとでした。イライラした場の空気がなごやかな空気にかわったのです。

1日の疲れをかかえて帰路に着く人たちの気持ちが、たった1人の笑い声で、まるでオセロのコマの色が次々にひっくり返るかのように変化し、あたりは温かい雰囲気にすっぽり包まれました。

だいぶ前のことですが、忘れられない小さなできごとです。




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