新生児室
昨昼、新生児室のいちばん奥の窓から
ほんものの空が見えることに気がついた。
6人部屋の廊下側のベッドからは少しも空が見えない。天気を考えるような余裕もなかった。
いつぶりの空だろう。
空を見たとたん、心の窓枠のストッパーを握り、力いっぱい引き下げた、そういう感触があった。
体の重いものが下へ流れてすっと軽くなる。
そうだ、どんな時も空を見よう。そう思っていたのは、いつだったっけ。
高校生の時のホームルーム。
教室の後ろのロッカーに全員分の歌がならべられた。
自分の歌を貼る時のむずむずとしびれる感覚。
「どうしても時間がたりない そんな時 空の青さが 私をすくう」
大学受験を控えたあの時、塾の自習室で籠った気分になると
外階段のいちばん上までのぼり、いつも空を見ていた。
天辺は一番青が重なって、その濃い青を仰ぐのが、本当に好きだった。
青を仰げば、いつも胸がすっとした。
外からはわからない、大学病院の新生児室には
20人の赤ちゃんとお母さんがひしめいている