#173 思い出にありがとうさよなら
年末の大掃除。
僕は毎年11月には計画を立てて、年末休みを迎えるまでにはほぼ完了させるようにしている。
なんでかわからないが、ど年末に掃除をすると風邪を引くからである。
去る2024年の大掃除も滞りなく進んだ。
おかげで部屋自体は綺麗になり、QOLの向上に大成功した――
のだが。
片付けられないものが1つだけあった。
ここ数年、とても悩んでいたのである。
小学校時代に遊んでいたフィギュアを手放すかどうかに。
思い出の詰まったポケモンフィギュア
僕はポケットモンスター、略してポケモンの大ファンである。
特に小学生時代はゲームボーイのポケモンが大流行していたのもあり、その熱量は尋常ではなかった。
ゲーム以外の商品も多数発売されており、そのうちの一つが小さなポケモンのフィギュアだったのだ。
モンスターコレクション、略してモンコレである。
両親や祖父母にお小遣いをもらっては、大半をモンコレに費やしていた。
子どもの頃から僕は収集癖があり、どうしても全てを集めたかったのだ。
もちろんその夢は叶わなかったけど、かなりの数を所有していた。
僕の家に来た友達たちも、そのモンコレたちを目を輝かせながら見ていたのをよく覚えている。
僕はミュウツー、彼はリザードン、彼はカメックス。
モンコレをぶつけあって、物理的なポケモンバトルをしたのはいい思い出だ。
小学校時代は常にポケモンと一緒にいた。
それはゲームの中だけではなく、モンコレがあることで寝ている時間以外はずっとずっと一緒にいた。
だけど僕が成長していくにつれて、モンコレを見ることもなくなった。
この20年くらいはボックスに入れたまま、クローゼットで埃をかぶる日々だったのである。
大掃除のたびに、僕は彼らを手放すか悩んだ。
だけど、彼らがゴミ袋に入っている姿を想像するだけでも心が傷んだ。
僕の子ども時代をキラキラした虹色に彩ってくれたのだから。
ボックスで埃をかぶって眠る、思い出のつまったポケモンたち。
結局手放せず、さらに埃を被らせたまま、気づけば数年が過ぎていた。
思い出を手放す決意
本を買いに近くのブックオフに行ったのが転機だった。
ショーウインドウにモンコレがたくさん並んでいたのである。
そしてそれを目を輝かせて眺める子どもたち。
そうか、今でもモンコレを必要としている人がいるのか。
もう遊ばない僕の、家のクローゼットで眠っているよりも、
そういう人のもとに送った方が彼らも幸せかもしれないな……。
子どもの頃の友達を彷彿とさせたその目の輝きが、僕を動かした。
よし、お別れをしよう。
必要としている人の手に渡るように……!
年末、自室の掃除が終わった僕は、風呂場にいた。
ポケモン1体1体をせっせせっせと磨いていたのである。
薄汚れているものもあれば、しっぽや手が欠けてしまっているものもある。
それだけ当時の僕は、彼らと全力で遊んでいたのだろう。
心の中で感謝をしながら、ポケモンたちを丁寧に洗っていった。
指人形なども合わせると全部で200体以上のポケモンが家に眠っていた。
それらを全てリュックに詰めて、僕はブックオフへと自転車を走らせた。
必要としている人のもとへいきますように
僕が彼らを持ち込むと、店員さんたちは騒然としていた。
その数もさることながら、どうやら僕が持っていたものはもう手に入らない代物だったようで、どれもこれもレアものなのだそうだ。
ピカチュウやリザードンなど今でも人気のポケモンたちはフィギュア化が多くされているので、そこまでレアではないのだという。
むしろズバットやギャロップなど、比較的マイナーなポケモンの方がフィギュア化される数が少ないのでレアなのだと店員さんが教えてくれた。
とはいえ僕は、彼らがレアかどうかなど気にしていない。
僕の家で埃を被るよりも、必要としている人のもとへ行ってくれればそれでいいのだ。
僕は店員さんに伝えた。
「必要としてくれる人がいると思うので、意を決して持ってきたんです」
すると、店員さんはとても優しい笑顔でこう答えた。
「はい、そういう人はたくさんいると思います。
そう思って、持ってきていただけてとても嬉しいです。
大切に預からせていただきますね」
ああ、この人たちなら大丈夫だと感覚的に思った。
モンコレを見るその目、解説するその口調と、ポケモンを語るときの躍動感から、きっとこの人たちなら大切に必要な人へと渡してくれるはずだと。
軽くなったリュック、モンコレの入っていた空のボックス。
もちろんそれらを見て、とてつもなく寂しさを覚えたけれど、スッキリした気持ちを持っている自分もいた。
思い出を埃まみれにしていることに罪悪感を覚えていたからだ。
彼らの旅立ちと共に、僕はまた大人の階段を一段上った心地になった。
そうして僕の2024年は幕を閉じたのであった――。
後日談
査定には数日かかるとのことだったが、いくらでも時間をかけてもらっても構わないと思っていた。
だが、店員さんたちも年内に終わらせたかったのだろう。
大晦日に店員さんから電話がかかってきた。
電話口の店員さんの声が、やや興奮しているように聞こえた。
「査定が終わりました。
なんと……273640円です……!」
ちょっと何言っているかわからなかった。
どうやらそのブックオフで、ちょっとした有名人になってしまった。
明細レシートを受け取りたいとレジで伝えただけで、
「あ、モンコレの人ですね」
と言われたくらいである。
何はともあれ……
これは、彼らがくれたお年玉かな、と思うことにしたのだった。