モンゴルが海を渡ったことをプロレスから知る
・はじめに
自分には好きなものがいくつもある
・ポケモン
・広島風お好み焼き
・刑事コロンボ
・星新一
・野球
・保温タンブラー
今思いつかないだけでこれらの他にもある、多分
そして今回話題にする「モンゴル」と「プロレス」も大好きだ。
今日はこの全く共通点のなさそうな二つの趣味がある発見からつながった話
※自分はモンゴルと世界史が好きですが詳しいわけではないので話半分で聞いてください。よろしくおねがいしますなんでもしますから
・ゲーム禁止だった我が家(PCゲームは除く)
前回のnoteで、我が家はゲーム禁止だったという話をした。
ところが、この話には例外がある。なぜならば我が家にはWindows95があり、それを触ることは自由だった(この頃のPCゲームにポケモンがあれば自分の人生はここまでこじれなかった)
とは言っても人生での一番の楽しみが「トントンずもうで番付を作って彼らの人生を考えてうっとりする」ことだった幼少期の自分にパーソナルなコンピューターの価値などわかるはずもなく、たまにイカの宇宙人が出てくるタイピングゲームを触るくらいしかそれを触ることはなかった。
そんな自分を尻目に父がこのPCでやっていたのが「チンギスハーン・蒼き狼と白き牝鹿IV」通称「チン4」である。
いまだに遊べる神ゲー
いかにもチンギス・ハーンが主役であると言わんばかりのタイトルだが、実はこのゲームはチンギスハーンとその子孫が活躍した11世紀~14世紀までの世界のそれぞれの文明を選んでプレイできるゲームであり、やり方によっては日本の奥州平泉政権(源義経を匿ってあんな事になった人たち)を使って鎌倉幕府とモンゴルをぶっ潰して世界制覇をすることも可能(むしろ楽な方、マジで難易度が高いのはポーランド)
とにかく自由度の高いゲームでありいくらでも遊べる、というか未だに一年に一回くらいはやってるレベルのゲーム。オリジナルの国を作ることもできるのでその次代に存在したであろう文明や政権を作り始めるともう止まらない(蝦夷アイヌ政権とか大理国とか)
こんな神ゲーが直ぐ側にあったと言うのにポケットモンスターピカチュウバージョンばかりをやっていた自分、このゲームの魅力に気づくのは中学校に入ってからだった。
・誰が世界史の卵を作ったのか
世界史にいい思い出がある人は少ないと思う。
突然地球上の点々としている文明の発展を覚えさせられ、覚えたかと思えば突然他地方にワープ、そこでもダラダラと文明の発達を覚えさせられ、覚えたかと思えば他地方にワープ。高校時代の世界史の教師が「世界史というものは縦軸と横軸を覚えなければならない学問」と言っていたことを未だに思い出す。
実際、自分も世界史にいい思い出はない、世界史は好きだが得意ではなかった、僕は勉強ができない。
何より「文明の発達という縦軸ばかりを覚えていつまで経ってもそれを貫く横軸が出てこない」のがしんどかった。
この「文明と文明を貫く横軸」は現代世界史では至るところに出てくる概念であると感じる。アメリカ大陸とユーラシア大陸の文明が火花を散らし、極東の日本の首相交代によってドルとユーロの価値が動く。とてもではないが世界史初期の世界観では考えられない。縄文人が土器に縄の痕をつけたところで、ヒッタイトが鉄の価値を気にして製造をやめることはないだろう。
モンゴル帝国の出現はこの「文明と文明を貫く横軸」の最古のものだと言われている。モンゴル草原から始まり、中国大陸、日本、琉球、ベトナム、イスラーム世界、東欧、そして西欧にまで、ユーラシア大陸の全てに手をかけようとした。アレクサンダー大王や十字軍も文明と文明を貫いてはいるが、ここまでの規模ではないだろう。
モンゴル帝国は「ユーラシア大陸の地域史を紐解けば必ず一定のタイミングで現れる侵略者」だった。
「文明の発達を示す縦軸」の乱立であった古代~中世世界史に突如として現れ、記録を残す文化のあった文明の数々に風穴を開けた「世界史の卵」がモンゴル帝国だったのだ。このスケールのデカさよ
中世のモンゴルと言えば「プレスター・ジョンを信じたキリスト教徒」や「マジで全盛期だったのにただただ理不尽にモンゴルにぶっ叩かれたホラズム」「執念の男クチュルク」「ハイドゥ君大暴れ」「自分をモンゴル帝国の末裔だと思いこんでるペルシャ人(めっちゃ強い)」などなどおもしろエピソードでいっぱい
・プロレスのヒールは世相を映す鏡
ここでもう一つの趣味であるプロレスが登場する。当然ながら自分の中世世界史好きとプロレス好きに接点はない。
プロレスは流血がエグいモノ以外は大抵面白く見れるが、特に好きなのはアメリカンプロレスで、レスラーのキャラクターが突飛であればあるほど好き。
プロレスというのはレスラーのキャラクターが非常に大事な演目であり、特にヒール役のキャラクターは面白い。
観客に憎まれるヒール役というものは、基本的には「嫌われ者」や「憎まれもの」のギミックやキャラクターが与えられる。当然嫌われたり憎まれたりするやつがやっつけられないと観客は喜ばないからだ、このへんはヒーローショーと同じだ。
と言うことは、その時代時代のヒールのキャラクターというものは、当時の世相というものを反映しているということでもある。
例えば「ジャーマン・スープレックス」という技がある。二次創作で目にするプロレス技ナンバーワンなこの技がなぜ「ジャーマン・スープレックス」と言われているのか知っているのは二次創作を楽しんでいる人の三割くらいだろう
いつ見てもかけてる側の首が心配
なぜこの技が「ジャーマン・スープレックス」と呼ばれるのか、それはこの技を得意としていたレスラーが由来となっている。
この技を有名にした元祖と言われているのはカール・ゴッチというレスラー、ドイツ人でありナチス支持者である彼はこの技で敵を痛めつけまくり、やがてこの技は彼がドイツ人であることから「ジャーマン・スープレックス」と呼ばれるようになったのだ!!!
ということになっているが実はこのカール・ゴッチ、ベルギー人である(この辺は本人は否定していたり結構ややこしい)
ドイツ人(ベルギー人)
ちなみにこのような「ヒールっぽくするためになんとなく国籍をごまかす」という手法は現代の多国籍プロレスでも頻繁に行われる。
ロシアの英雄(ブルガリア出身)(アメリカ国籍)
元力士の日本人(相撲をやったことのないサモア人)
アラブ人(イタリア系アメリカ人)
ちなみに皆さんも教科書で目にしたことのあるシュミット式バックブリーカーの創始者ことハンス・シュミットもドイツ出身のナチスキャラだったが、フランス系カナダ人だった。
ドイツ人(フランス系カナダ人)
地獄の料理人(現世のプロレスラー)
シュミット式バックブリーカーの創始者(創始者ではない)
とにかくプロレスラーのヒールというものは世間様からバッシングを受けなければならないためにとにかく「嫌われ、憎まれもの」を演じなければならないのだ。
・モンゴルの驚異、海を渡る
ここでようやく今回の主役であるレスラー、ニコライ・ボルコフが登場だ
凶悪な共産主義者のロシア人(優しくて共産主義を嫌悪するクロアチア人)
彼がどのようなレスラーであったのかということを説明すると長くなるので割愛するが、彼が活躍したのは冷戦ど真ん中の1970~1980年代アメリカのプロレス団体、当然ながら彼はバリッバリのヒールとして大活躍する。試合開始前にリング上でロシア国家を歌い、1980年代では中東系レスラーのアイアン・シークと反米タッグを組むという激ヤバ要素てんこ盛りのレスラー人生を送った。
アイアン・シーク
イラン人(イラン人)
彼がヒールとして共産主義者のロシア人を演じたのはこれまでの流れからして当然だろう、実際にはユーゴスラビア系移民の彼は共産主義を嫌悪しており「観客にもっと共産主義者を嫌いになってもらえ、共産主義者は間違っているのだということをお前が表現しろ」と言われて奮起するような境遇だったらしいが。
ところで、彼は「共産主義者キャラ」を演じる前はどんなキャラだったのか?
そう、その答えこそがこれまでのまとめ
「共産主義者キャラ」になる前、なんと彼は「ベーポ・モンゴル」というリングネームでモンゴル系キャラクターだったのだ!
モンゴル人(カナダ人)とモンゴル人(クロアチア人)
実は1960~1970年代のプロレス業界には「モンゴル人」というヒールが結構いた。有名どころではキラー・カーンだろう。
モンゴル人(日本人)
この時期のプロレス業界の三大わかりやすいヒールといえば「ロシア人」「ドイツ人」そして「モンゴル人」だ。
冷戦をおこなっていた「ロシア人」世界大戦で敵国側だった「ドイツ人」がアメリカでヒールになるのはわからないでもないが、「モンゴル人」などアメリカ人に傷一つつけていないだろう。何なら世界大戦で敵国側だった「日本人」が「モンゴル人」を名乗るほどだったのが当時のプロレス業界であり、世相だった。アメリカ人はつい最近までモンゴル人が怖かったのだ。
中世欧州では「モンゴル人は捉えた敵の目に溶けた鉛を流し込むのだ」と噂されていた。遊牧民は基本歴史を記録することがないのでそれが本当かどうかはわからないが、一説によるとそれは、相手の戦闘意欲を削ぎ、無駄な戦死者を出さないためのモンゴル帝国の「脅し」ではなかったのかとも言われている。馬を操り戦闘に長けていたモンゴル人達の唯一にして最大の弱点は、モンゴル人という民族の少なさだった。事実モンゴル帝国は降伏した敵国の民族を戦線に吸収していったという。
モンゴル帝国の「脅し」は20世紀のアメリカにも届いていた。カナダ人が、日本人が、クロアチア人がモンゴル人となり、アメリカマットで戦ったのである。モンゴル帝国は海を超えることが出来なかったが、その「驚異」ははるか遠くアメリカ大陸にまで轟いていたのである。
・最近のアメリカマット事情
民族的なヒールを作るというプロレス的なメソッドはつい最近までは頻繁に行われていた手段ではあるが、近年ではめっきり見なくなった、相変わらずロシア人はたまに見かけるが、例えば中東系のギミックなどはもう「触れちゃ駄目」なものとなり、モンゴル人の驚異ももうすっかりと見なくなった。
最近はちょっとややこしくなってきているのかいわゆる「世相」を反映したヒールも見なくなってきている。例えば数年前に渡米した中邑真輔などはアメリカマット界が「あの頃のノリ」だったら「アメリカを馬鹿にする金持ちで卑怯な中国人」というキャラクターにされていただろう。
今日も楽しく書きました。