MMORPGによって生まれたMMO亡者
これはMMORPGにのめり込んだことのある人にしか分からない話。
1.初めに
この世には「MMORPG」というものがある。
端的に言えば「時間と金を湯水のように使って遊ぶ必要のある、オンラインマルチゲーム」のことである。
広義で説明してもいいのだが、人それぞれプレイしてきたMMORPGは違うので語り切ることは難しい。だから誰もが共通項として持っているであろうMMOを説明するのであれば、上記の一文に集約される。
とはいえ言葉が足りないので少し足す。
MMORPGとは、自分のキャラクターをオンライン上の世界で動かすゲームのことだ。Massively Multiplayer Online Role-Playing Gameの略で、めっちゃ大人数のプレイヤーがオンラインでロールプレイしてるゲームのことである。
FF14なんかが一番有名だし、昨今だとVRchatなんかが近い。
分身アバターをゲームの中で操作し、そして他のプレイヤーとコミュニケーションを取る。100人ぐらいが同じ場所にいることだってあるし、1000人以上が同じサーバーに接続して同じ時間を過ごすことだって存在する。言わばもう一つのリアルみたいなものである。
さて、そんなMMORPGだが、ここに妄執を抱く人が存在する。
僕のことでもあり、そして世に10万人はいるであろうMMOプレイヤー達のことだ。主語が大きいように感じるかもしれないが、これは間違いようのない事実である。そしてVRchatなるものが誕生した以上、この妄執を抱く人、言い換えれば『MMO亡者』は今後も増え続けることになるだろう。
僕達が一体何に憑り付かれているのか。
それは想い出であり、過去であり、青春であり、そして懐古の念である。
そのあたりをちょっと綴っていく。
2.MMORPGの功罪
上記で書いたように、MMORPGというのはもう一つのリアルである。
そこにはコミュニティが、人間社会があるのだ。
例えば多くのMMORPGではギルドなるものが存在する。これはゲーム世界における集まりのことで、加入していると様々な特典がつく。キャラクターの戦闘能力をあげるバフの存在、所属することで得られる恩恵の存在、所属していなければ参加できないイベントやコンテンツの存在。もしくは単に人恋しさというものもあるだろう。とにかく、人付き合いの発生するコミュニティに参加する人は多い。
他にもダンジョン募集というものもある。高難易度コンテンツをクリアするために仲間を募ろうというやつだ。行きずりの関係ではあるものの、そこには「よろしくお願いします」で始まる会話が存在し、ディープなものになれば「盾役なので敵連れてきますね」「回復こっちに足りてないよ」「火力さん位置取り間違ってます」「あの敵からターゲットしよう」「ここのギミックはこうこうこうで~」といった会話がチャットで展開されることになる。
また、よく全体チャットで売買している人は名が知られていたり、露天や生産職といった要素のあるゲームでは「〇〇さんって良いアイテム売ってるよね」と話題になり、箱庭要素があるなら「××さんのホームめっちゃオシャレだった!」となるし、課金装備でキンキラキンだと「あの人まーたガチャ回してるよw」みたいになる。
これら全てでやってることは部活動やサークル活動に似た何か、もしくは主婦様方の井戸端会議の会話であり、高校生の好むゴシップであり、社会人にとっての社内の人間関係である。つまり、この世界のどこにでもある人間社会というものがそこには存在する。
MMORPGはもう一つのリアル、という言葉の意味の大部分は、この社会性にある。
画面の向こう側には別の人間がいて、その人たちと文字伝手で意思疎通をしたり、アバターの動きによってボディーランゲージをし、一緒に敵を倒したりレベルをあげたりすることで共に共通の話題を手に入れ、楽しい時間を共にするのだ。
何が言いたいかというと、とても時間を使う。
MMORPGにもソロプレイなるものはあるが、大体の人間は人恋しさに負けて誰かと仲良くなる。そしてゲーム内でしか会えないその友達と一緒に沢山の時間を過ごすようになる。
また、MMORPGはとにかく時間を食う設計になっている。上がり辛いレベル、一日・一週間という区切りで制限されているコンテンツ、高レア装備や高レアアイテムを手に入れるのにはバカげた確率の壁を超す必要があり、そこを目指すとなるとリアルの世界の一部を犠牲にしてのめり込まなければならない必要性が発生する。
コミュニケーションとゲームシステムの相乗効果によって、僕たちは沢山の時間をMMORPGに費やすようになる。
するとどうなるか。
僕達は亡者になるのだ。
ゲームの世界での自分のために、努力をする。
沢山の時間を費やすことでキャラクターのレベルを上げ、強い敵を倒したり、高レアのアイテムを揃えたりする。
なぜそんなことを? それがゲーム世界におけるステータスだからだ。リアルの世界では顔がカッコよかったり、部活を頑張っていたり、資格を持っていることが人間としてのステータスとなる。それがゲーム世界ではレベル・装備・課金アイテム、といったものに置き換わる。
また、仲良くなりたい相手や、一緒にいる相手に、良いところを見せたいという気持ちもある。話を振るし、一緒に行動したがるし、サブキャラとか作ったり、欲しいアイテムを取りに行くのを手伝ったり、高難度コンテンツの攻略を手伝ったりする。その逆もまたしかりだ。
過ごした時間の長さは仲の良さに比例する。現実と一緒。
僕達はゲーム上とはいえ、そこに繋がりを作り、育んでいくことになる。
そして訪れるのは『MMORPGのサービス終了』だ。
これは必須事項である。
MMORPGはそもそもビジネスとして欠陥を抱えている。
そもそもゲームというのは流行り廃りが存在するジャンルだ。一つのゲームタイトルが10年以上続くのは奇跡に等しく、MMORPGであれば3~5年持てば優れていると言ってもいい。
つまり、終わりはいつか来る。絶対に来てしまうのだ。
そう、コミュニティが潰れるのだ。
リアルで言えば会社が潰れたり、学校が唐突に無くなるのに等しい。これは大げさすぎて想像し辛いか。公園やサッカークラブが潰れる、と言った方が適切かもしれん。
もちろんそれでも連絡は取れる。今はLINEなどのSNSが存在するし、discordやX、Tiktok、Instagramなどでやりとりを継続することも出来る。
だが、もうあのゲームには二度と戻れないのだ。
公園で一緒に遊んでいた友達と、LINEでだけ繋がりを残したとして、以前と同じように仲良くいられるだろうか。いられるかもしれない。別の遊び場、例えば互いの家であったり、また別の公園であったりを探すことも出来るだろう。
だが、ゲームでそれは難しい。なにせゲームとゲームは全く別物なのだ。他にもリアルとネットの違いというものもある。冷静になってしまう。一度熱中していたゲームから離れることで、どうしてあそこまで楽しかったのか思い出せなくなったり、また同じように熱中出来るナニカをすぐには見つけられなかったりする。
そして、疎遠になる。
もしくはゲームが終わった時点で、関係性が途切れる。昔はスカイプとかmixiぐらいしかなかったというのもある。LINEなんて存在しなくて、そもそもそういったボイスチャットなどは敬遠されていて、一歩間違えば直結厨だの出会い厨だのと言われたり嫌われる可能性まであった時代だったのだ。
全ては思い出になってしまうのだ。
古のMMORPGは、サービス終了と共に未練となる。記憶の遺物となる。懐古することしか出来ない鑑賞品となってしまう。
二度と取り戻せないあの日々。それも、リアルを犠牲にしていればしていただけ、その重さは膨れ上がっている。
幼い頃、何とか追いつこうとたどたどしく打っていたチャット。「www」という文字を打つだけで成立していたコミュニケーション。やべー奴や頭のおかしい奴とバカみたいに騒ぎ、キッズ同士で慣れ合ったり、レベル上げのためにマゾいダンジョンに籠り続け、野良でやってきた地雷タンクと喧嘩し、辻ヒールしていたらなんか仲良くなり、ギルドで晒し合いが起こり、ギルドバトルやレイドボスの取り合いで一喜一憂し、課金のガチャの結果で運営への恨みを募らせ、アップデート後に実装された新コンテンツのマゾさにゲロ吐きながら愉しみ、サブキャラの育成をあーでもないこーでもないと語り合い、たまに落ちるレアドロップをなんとか高値で売り払いたいと苦心し、欲しいレア装備のためにひたすら金策に励み、ダンスしたりチャットしたり、ゲーム内で恋人を作ったり、チャHしたりVCで寝落ち通話とかして、別れる別れないの痴話喧嘩が起き、外野も巻き込んで無茶苦茶なことになり、一日経ったら何をゲームでしょーもねえと悟りを開いたりし。
誰もが何らかの、沢山の想い出をMMORPGに抱く。
新しい世界で、等身大の自分で、沢山のことを一からやってきた世界だからだ。現実世界でバブバブ生まれて育ってきた今までと同じような経験を、新しい世界でもう一度、自分のかじ取りで進めていた。それが思い出にならないわけがない。
その世界がなくなるのだから、そりゃ妄執の一つも抱くのだ。
そしてその妄執は一生解消されない。
なぜならゲームはもう存在しないのだから。もちろん綺麗な形で次へ向かう人や、別ゲー、別ジャンルへ一緒に乗り移れた人は例外だ。でもそんな器用な人ばかりではない。ゲームが無くなる時、関係性もそこで終わってしまう。周回連載の漫画が唐突に打ち切られたかのごとくにだ。そうなってしまったらもう、彷徨うしかないだろ。
僕達は亡者になる。
大きくなるにつれて過去を神聖化するのは人の常だが、MMORPG亡者は次元が違う。文字通り。ゲームも存在しない。相手と会う手段もない。思い出という名の玉手箱だけ渡されてポイと放り出されてしまう。これがMMORPGの功罪だ。思い出という名の功と、思い出という名の罪を、等しくプレイヤーに与えて消えていく。ここまで罪なゲームジャンルもまぁ珍しい。極悪非道と呼んでも過言ではないと思っている。
3.亡者が成仏する方法
二度と解消されない未練を背負わされた僕達亡者。
彼らは未だに世の中を彷徨いながら、様々な方法で未練を満たすべく足掻いている。
一番分かりやすい成仏の方法はリアルの成功だろう。
MMORPG、というかネット社会からきっぱり脚を洗い、現実に専念する。学業、仕事、なんだっていい。結果を出したり、資格を取ったりすることで自己肯定感を上げ、会社で出世したり家庭を築くことで満たされる。人本来のあるべき姿に戻るわけだ。
忙しい日々というのは充実しているが故に、未練を思い出す暇がない。常にタスクが用意されていれば走るのが人間という生き物。走り続けている間、人は昔のことなんて早々思い出さないのだ。
だが、そんな生き方が出来る奴は少ない。
なにせMMORPGにハマった、もしくはMMORPGに時間を使った人間というのは大体ロクでもない。リアルに居場所が無いからMMORPGで居場所を作った、という人は割と真面目に多いだろう。MMORPGに妄執を抱くということは、妄執を抱けるほどに何かを費やしたということと同義で在り、そういったネトゲ廃人と呼ばれる類の人種はやっぱりネットの世界で生きていく運命にある。
昨今の有名なVtuberや配信者の中にも、昔このゲームプレイしていたんだろうなって人は多いし、公言している人もいる。その割合はかなり多い。
他のMMORPGに移動した人もいるだろう。FF14やTOSあたりが主な移動先。他にもボドゲ界隈やオンゲ界隈などにも、過去にMMORPGにハマっていたと公言した人はそれなりにいた。
やっぱりMMORPGをやるような奴は人恋しいのだ。
だってゲームが好きって言うなら、買い切りゲームやってればいい話なのだから。マリオをピコピコやり込むんじゃなく、わざわざオンラインで誰かとコミュニケーションを取る必要性のあるゲームをやっていたということは、誰かと楽しく笑い合いたいという欲望もあったということに他ならない。
だが永遠に続くゲームなど存在しない。
こういったネットに逃げ延びた亡者は、多くの場合亡者のままだ。もちろん大成功を収めたり、何らかの形で落ち着いて満たされた人間は、昔のMMORPGなんて忘れることが出来ているかもしれないが。それでもやっぱり、令和6年の今になっても、平成初期のMMORPGの頃の思い出を引きずりながらのたのた歩いている亡者は世の中に五万といるのではないかと僕は思う。
亡者が成仏するには満足する必要がある。
胸にぽっかりと空いてしまったその穴を、何とかして埋める必要がある。
思い出を確かめることは不可能になってしまった。だから穴の形とピッタリ同じの補修材は、この世にもう存在しない。それでも、何とかして穴を埋められるだけのナニカを用意してやる必要が僕達には存在する。
それが何なのかは人による。
でも、これは僕なりの持論だが、それは他のゲームで埋められるものではないと思っている。どんなMMORPGへ行って、どんなに満たされた経験をしたとしても、埋めることは難しい。思い出は強すぎる。過去は不動なのだ。日に日に思い出は輝きを増していくため、同時に心の穴も巨大になっていく。それを似たようなゲームの想い出で満たしきろうとするのは現実的ではない。
忙しさだ。
仕事をしまくって、結果や実績を出し、リアルが充実すれば、埋まると思う。
忙しければ思い出さずに済む。過去はこれ以上大きくならないし、思い出さなければ萎んでいく。忙しい日々は全てを忘れさせてくれる。
そして、小さく目立たなくなった傷の上に、積み上げてきたものをドカッと乗せてやる。そうすることが一番未練を消してくれるのだと、僕は思っている。
まぁこの先はメンヘラの直し方とか、社会不適合者の生き方みたいなもっ と大枠の話になるだろう。それをやるつもりはない。
僕も結構な亡者だし、リアルを忙しくしていると言ってもこんな記事を書いてしまうぐらいには未練タラタラだ。むしろこの未練を消してくれる何かを知っている人がいたら教えて欲しいぐらいには、この妄執に苦しめられている。
でもこの妄執、心地よくもあるんだよな。懐古って気持ちいい。都合よく美化されたあの頃の想い出。これに浸っている間、僕達は幸せを感じることが出来てしまう。
人間ってマジで不合理な生き物である。
4.最後に
何が言いたいか取っ散らかっているが、別に何かを言いたいわけでもない。ただ、最近古のMMORPGがちょくちょく復活しだしているので、ふと思い出したことを吐き出しておきたいと思っただけである。
MMORPGというものは罪深きものだ。沢山の亡者を生み出した。
そしてその亡者の大半は、今もまだインターネットの海の中、目指す先も分からないままにまるでゾンビがごとく徘徊している。
皆さんもMMORPGにはくれぐれもご注意を。
取り返しがつかなくなりますよ。