田中修子

ものをかくひと

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春提灯と咳緋鯉

 風のにおいがする、花の音がする。逃げてゆく春の背だ。  だれかをこころの底から愛したことがあったかどうか、ふと、八重桜のうすひとひらに触れそうにして胸苦しくなるんです。あなたもです、私もです、お互いを鏡にし杖にし、道具にしてきたからこげなことになったんじゃなかろうかねェ。体に走る無数の春の夕闇の切り裂きから滲み出る。いつもなにかのせいにして、至らなさに目を伏せて、口元だけは笑わせてサ。いくつもいくつも大昔に投げて放ッたらかしにしておいた問いが、修正ペンでかすれた白をあちらこ

    • 蝋梅、もうすぐ春が来るよ

      久しぶりにはしりがきの日常を。 ある詩人さんの美しい家に招かれ、「今住んでいる家を目の喜ぶもので満たしなさい」と助言いただいてすぐ、家具を変え始めた。テーブルを骨董屋で買ったイタリア製の猫足のものにしたり、味気なかった台所の照明の傘を赤色に塗ったりして、そのうちに詩人さんをお招きして朗読会をひらける部屋にしようとしているうちに、わが子の愛らしい狼藉がはじまって部屋にキャラクター・グッズがあふれてしまって、計画はさきへさきへと流れている。 それから、本当はパソコンに向かって

      • 3.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 雪の病室

         ※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「受容とゆるし」の期間に入っています。だからこそ、きちんと公開できる時期がきたように感じます。2020/12/19 作者※  あのひとは損な人だった。  15歳くらいまでにやられたこと言われたことがえげつなすぎて、本当にいい思い出がない。 「子どもは親のモノなんだから金払え」「いうこと聞かなかったら野垂れ死ぬ

        • 2.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 少女Aとテントウムシ

          ※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「受容とゆるし」の期間に入っています。だからこそ、きちんと公開できる時期がきたように感じます。2020/12/19 作者※  私は1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の犯人、酒鬼薔薇聖斗こと少年Aが好きだった。少年Aは当時14才で中学生という報道で、私は当時12才で小学6年生か中学1年生だった。彼も私も、とびきり

        春提灯と咳緋鯉

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        • 2本
        • 現代詩
          1本

        記事

          1、ジャンヌ・ダルクの築いたお城 蛸

          ※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「受容とゆるし」の期間に入っています。だからこそ、きちんと公開できる時期がきたように感じます。2020/12/19 作者※ おととい、あるいてほどなくある実家の父に 「婚姻届けのサインをもらいにいっていい?」 と電話をした。 「いま、選挙期間中だから忙しい」 私は黙った。それで、父は慌てて 「時間がある今日中にサイ

          1、ジャンヌ・ダルクの築いたお城 蛸

          あけなさい

          この、うつくしいひとへ 「あけなさい」 古風で艶やかな、歪な箱のなかに、清純な羽が幽されていて。箱を震えながら耐え忍んでいるわたしは、ずうっと座らせられているの、小ぶりなかわいい椅子に。そうして、立つ力を失くしていた。 あけたい。 あけたくない。 「あけなさい」 あたしもあけたのよって、だからあなたには、初めて会ったとき右首に深々とした切り傷がついていて、黒い糸で縫われていたじゃない。左腕も右腕もズタズタで、消毒液がパチパチ拍手の音をしていて、綺麗な音だなって、手を

          あけなさい

          収容所から出る

          原家族や自分の過去、そして病との取っ組み合いを続けてきたのだけれど、それらがあっけなく去ってしまった。なんて長い日々だったろう。どれだけの時間を費やしたろう。まだ複雑性PTSDという病はうずくけれど、格段に良くなった。 ものを書けなくなって約、十年。詩を再開し、それらの詩と書けなくなる前の掌編を力づくでまとめた詩集「うみのほね」によって、憑き物が落ちた。相当数、まるで血で書いたような詩も入れて、その詩集を、大切なお金で買ってくださった方がいらして、つながりもできて、私は過去

          収容所から出る

          月に歩きだす

          イシムラさんに純文学誌に投稿してみるようにおススメされてもう一か月か二か月、いろんなことにジタバタしながら、少しずつ原稿を書いていたのだけれど何かが足りない。溝の口のデニーズでパフェとドリンクバーをごちそうになった。艶々したキミドリのシャインマスカットの小さなパフェ。秋の初めだったっけ。白島さんが上京されてきたときもあのデニーズだったし、今度あかりちゃんと筆写会をするときもあの場所がいいかもしれない。 昨夜は十月のおしまいを飾る真ん丸でぴかぴかとしたお月様だった。だいぶ金色

          月に歩きだす

          「かぎ編針で刺す」と日記

          薄ピンク色 愛を乞ういろを なでる ひたすらに ああ、知っているよ まっすぐに 舌から垂れていく粘膜は都市を浸食していきますね。崩落していく花の詰められた箱から解放されて飛び立つ夜の白鳥の夢ですね しっぽふりふり、動物のふり、四つん這いをして舌をペロリする ウフッ 獣姦は禁じられています。それはなぜだったろ 孕め。孕め。孕みなさい つかむ爪の輝き、なにを乱反射しているのかしら、そう薔薇の洋灯 編み物を、する かぎ編針 みどり、森のいろ。森のいろと、夜の星の銀色の

          「かぎ編針で刺す」と日記

          照らしあう

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          【後半クローズ中】紫陽花の浜の絵

          --- サバイバー仲間の散鞠ざくろさん @c_m_zkr / 企画用アカウント 甘く仄暗い泡沫さん@sweetdarkfrothが企画されている同人誌に寄稿いたします。東京文学フリマ販売予定のようです。私を含め、ネット連載小説に投稿されている約20名の方が参加される同人です。 ---  紫陽花がいちばん青く染まった、そのときを切って花束にしよう。ピンクのやみどりの混じったのは選ばずに、目を打つように青いのだけを。  花束を浜にしいた。  この浜はどこだろう。金の夕暮れ

          【後半クローズ中】紫陽花の浜の絵

          詩集「うみのほね」発売中 エロ詩人ってなんなんだ

          漢詩の合同誌に、確認できる限り百年ぶりに乗り入れた自称現代詩人、田中修子です。で、詩人って何だ? さて、とってもとりとめもない日記を書き始めようと思う。詩集「うみのほね」の販売をしなきゃいけないし。 www.amazon.co.jp/dp/4879443689(Amazon販売ページ) 拙詩集「うみのほね」ご購入は上記リンクからどうぞ。 言葉に酔いしれる人たちの世界へ帰って、きたよ。 現世はすべて夢、夜の夢こそまこと。と呟いたのは江戸川乱歩先生だ。それを固く信じたの

          詩集「うみのほね」発売中 エロ詩人ってなんなんだ