雨宮タビト

小説書いたりDJしたり夏フェス行ったりしてます。中の人は教育職。ファーストロストジェネレーション。

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マガジン

  • 自分語り

  • コロナの時代の愛

    2020年の春、何が起こったか。様々な世代と様々な人たちそれぞれの人生の記録。

最近の記事

雨宮タビト自作解説②「ジェンガ」

はじめに二作目です。ジェンガです。 えらく時間がかかってしまいました。 「ジェンガ」のお届けができます。 実際今まで書いた作品で一番好きな作品なんなの?と訊かれたらすごく悩んで「ブライアン」か「スリーピー」か「安田君」か、と呻吟した後、恥ずかしそうに 「ジェンガ」 と答えるのでしょう。 ジェンガその「ジェンガ」です。ある満月の夜、死んだ犬のことを考えていたら思い浮かんだ作品です。 ジェンガを崩しに来る猫、という話があって、飼い主さんが衰えたその猫の前でジェンガを

    • 雨宮タビト自作解説① 「ブライアンが勝ったので」

      はじめにようやく第二作を発表することができました。長かった。すぐ出せると思っていたのですが、全然編集する気になれずここまで来てしまいました。 そうすると、第一短編集のこともちゃんとお話ししておかなくてはならないかな、と思いました。僕は自作について語るのが好きなのですが、小説の後ろに解説がずらずら載っているのを是としない人もいると思います。 なので、以前解説を書いたものをnoteに出しておこうと思います。 「散歩者」「安田君」以外はSF色の強い作品がメインになっています。

      • コロナの時代の愛(2)

         目の前で貝が焼けるのを見ている。深夜である。蛤の汁がふつふつと煮えてくるのをじっと見つめる。 「ちょっと、見すぎ」  肩をつつかれる。 「いや、こういうのは」シノハラは真面目ぶって応える。「火加減が大事なんで」  ミヤに飲みなおそう、と誘われて、磯丸水産で貝を焼いている。平日の深夜に客がいるはずもなく、店内にはほとんど人がいない。「人そんないないからだいじょうぶだよね」と言ってミヤは店の真ん中のテーブルに陣取り、ビールを頼んでさっさと飲み始めた。 ミヤは飲みっぷりがいい。す

        • いいのよずっとこのままふたりはジャストフィットなんだから

          井上陽水は明日BBCでドラマになってても別に驚かない はじめに 井上陽水五十周年によせて井上陽水先生がデビューして五十周年らしい。僕は中学生からずっと井上陽水が好きなので、三十五年くらい井上陽水といっしょにいたことになるのだろうか。親と一緒に行ったカラオケ喫茶で僕が最初に歌った曲は「心もよう」なんだそうです。僕は記憶にないんですが、いきなりマイク握りしめて「さびしさのつれづれに~」と坊主頭の中学生が歌い始めたら僕なら我が子だろうと躊躇なく警察を呼ぶと思うのでうちの親は度量が

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        • 自分語り
          2本
        • コロナの時代の愛
          1本

        記事

          コロナの時代の愛(1)

           脱色した髪が揺れている。  次の曲のBPMを気にしながら、目の端でそれを見ている。  初めて来る客だと思う。あの髪は見たことがない。 もっともそう思うだけで見たことないのは髪の色だけかもしれない。客の顔を覚えるのが苦手なので確信はない。  壁際にもたれたまま、脱色した髪が左右に揺れている。マイナーな四つ打ちだが気持ちよさそうに揺れている。だがフロアに来る様子はない。  壁の花だ。自分もそうだからわかる。楽しんでくれているのはわかるが、我を忘れて踊るほどではないのだ。頭が冷え

          コロナの時代の愛(1)

          在宅ワークのためのアルバム5選

          在宅ワークの良いところがひとつだけあるとすれば、音楽を聴きながら仕事ができるというところだろう。DJのはしくれと名乗るからには、そんなときに人に薦めるアルバムのふたつやみっつあってもいいところだ。というわけで、在宅ワークにおすすめのアルバムを5つ、順不同で選んでみた。 Clairo 「Immunity」Youtubeで発表した「Pretty Girl」が評判となったアメリカの宅録系SSW。声がアンニュイで大変よい。目をつぶると何もない部屋にいるような感じのする曲が多い。最初

          在宅ワークのためのアルバム5選

          映画館で映画が見られないので、ミ〇クボーイ風に映画を紹介してみた①「デビルマン」編

          「どうもーシネマボーイですー」 「ありがとうございますー」 「ありがとうございますー」 「いまお客様より、TOHOシネマズのチケットの半券をいただきましたー」 「ありがとうございますー」 「こんなんなんぼあってもいいですからねー」 「あのな、うちのおかんが好きな映画があるらしいんやけど、その名前が思い出されへん言うねんな」 「好きな映画の名前忘れるとか、どうなってんねんそれ。おかんの好きな映画なんか、となりのトトロか天空の城ラピュタぐらいやろそんなもん」 「それがちゃうらしい

          映画館で映画が見られないので、ミ〇クボーイ風に映画を紹介してみた①「デビルマン」編

          コロナの時代の孔子

          とりあえずみんな論語読めばいいんじゃないか問題 仁っていったいどういうものかしらこの自粛期間中、読書でもと思うのだが、重たいものを読むのは大変気が引ける。これを機に積ん読を解消しようと思うのだが、読書とは正月のように心になんの心配も無いときにするものである。それがたとえよくできたエンタメ小説であっても、たとえそれがずっと読まないで我慢していたテッド・チャンの待望の新作であったとしても、今のようにストレスにまみれているときは、話の筋を追うのもしんどい。 そんなときこそ論語

          コロナの時代の孔子

          Living in a Ghost Town

          今朝、ぼんやりFacebookを覗いて思わずおお、と声を上げてしまった。 ローリングストーンズの新曲があがっていたのだ。 タイトルは、 Living  in  a Ghost Town 一度PVを見てほしい。 Love  is Strongを思わせるブルースハープに乗せて、ミックの嗄れた声が、あの独特の艶を持って語りかけてくる。 誰にでもわかるような簡単な英語なので、だいたい意味がわかる。多分こんな感じだ。 俺はゴースト ゴーストタウンに住んでいる 探してもいいが

          Living in a Ghost Town

          「走らなかったメロス」

          友情の英雄か、稀代の馬鹿か、その名はメロス。 走らないメロス(または走れよメロス)「走れメロス」と「羅生門」はほとんどの日本人が全文を読んでいる、数少ない日本文学だと言われている。前者は中学校で、後者は高校で、ほぼすべての教科書に採択されてきたからだと思われる。 例によって内容を忘れてしまった人のために。太宰は早死にだから著作権が切れているのである。青空文庫万歳(ちなみに、太宰の友人であり師でもあった井伏鱒二は90過ぎまで生きたので、まだ青空文庫に作品がない)。 kin

          「走らなかったメロス」

          天国はないと想像してみよう

          10万円の支給が決まる前から、一律の支給に対していろいろな声が聞こえてくる。「外国籍に支給するな」「生活保護に支給するな」「公務員に支給するな」「政府を批判した奴に支給するな」「余裕のある奴は辞退しろ、寄付しろ」…さすが国士様たちは国の懐を心配して他人の財布に口を出すことに余念がない。 死んだうちの父は「他人の財布に口を出すのは下品だ」と言い続けていた。だが、多くの人にとってはそうではないらしい。 職場の近くにインド人のやっている料理店がある。頼みもしないのにナンのおかわ

          天国はないと想像してみよう

          怒りに我を忘れるなって言うけどさ

          Don’t look back in anger, I heard to say. Twitter上で僕はいつも怒っている、と言われている。 まず僕はADHDだから、急な予定変更がダメである。今、この国は急な予定変更しかないのだ。イライラする。誰のせいでもないが、イライラする。職場では何ということはないという顔をしているが、親しい先生からは 「あー今イライラしてるでしょー」 と言われる。ええ、イライラしてますとも。この休校はいつまで続くんですかねえ。急に休んだり急に始めた

          怒りに我を忘れるなって言うけどさ

          象はなぜ「さびしく笑った」のか

          オツベルと象とディスコミュニケーションの話、 あるいはやりがい搾取の話。 はじめに 「オツベルと象」を知っていますか オツベルと象、という話をご存知だろうか。私くらいの年代だと、中1の教科書に載っていたので、一度は目を通された方も多いのではないかと思う。宮沢賢治の代表作のひとつであり、「走れメロス」「羅生門」と並んで、最も多くの人が読んだ近代文学作品といってもよいだろう。今でも一部の中学国語の教科書に採用されており、中学校1年生たちのための教材として学校現場では繰り返し読ま

          象はなぜ「さびしく笑った」のか

          教師になる教え子の話

          中学校の教員をしている。 教師をしていると、くすぐったくも嬉しい瞬間というのがいくつかある。一番くすぐったくて嬉しいのは、生徒が同業者になったときだ。 この春から教え子が教員になる。四十手前で教員になった自分にとっては初めてのことで、嬉しくてひとりで酒盛りをしてしまった。このご時世じゃなければ飲み歩いていただろう。 彼女は中2、3で担任した女子生徒で、部活も同じだった子だ。仮にTとしよう。 Tはいつもひょうひょうとしているくせに妙に頑固なやつだった。 中2の進路面談で「

          教師になる教え子の話

          ありがとう藤原啓治さん、ありがとうエウレカセブン

          緊急事態宣言が発令され、ずっと家にいることが多くなった。職場は閑散としており、3日のうち2日は在宅という「間引き運転」。在宅勤務で日がな一日パソコンに向かっていると、いろいろなことを考える。  そんな中、声優の藤原啓治さんが亡くなった。55歳だった。  藤原啓治さんの代表作といえばクレヨンしんちゃんの野原ひろしなのだろう。  だが、僕らの間では藤原啓治といえば、ホランド・ノヴァクだ。  奇しくも今日4月17日は、エウレカセブンが始まって15年になるらしい。  15年前の僕は、

          ありがとう藤原啓治さん、ありがとうエウレカセブン

          人生50年というからさ

          本日、4月27日は誕生日でした。49歳になりました。数え50というやつです。 名だたる武将、有名人が50を前に亡くなっています。織田信長、上杉謙信、真田幸村、西郷隆盛…不慮の死も含めて、この辺が寿命、というのがわかっているようです。 人間50年、というのは幸若舞「敦盛」の一節だそうで。 人間五十年 下天の内に比ぶれば 夢幻の如くなり これ、人生が五十年、という意味ではないな、と思うのです。 人間、つまり人間界の五十年は、下天、つまり天界の時間にすれば夢幻、つまり一瞬

          人生50年というからさ