電子レンジ

去年の秋に電子レンジを買った。
いままでは中古のもらいものを使っていたのだけれど、引っ越しを機に新しいものを購入した。
それはそれは何日も悩んだ。こっちはあの機能がある、そっちはどんな値段だとたくさん検討して、今のものに落ち着いた。

新しい電子レンジなのだ。
大切に使いたいし、いつまでもキレイでいてほしい。
そう思って、こまめに掃除していた。

できるだけラップを使ったし、庫内専用マットなんかも設置したし、調理のあとは必ずぬれ布巾で拭いた。ときには重曹も使った。
ふふん、なかなか大切に使えているぞと思っていた。こんなに電子レンジを大切に扱えるひともなかなかいないんじゃないかとさえ思っていた。

冬には愛情も湧いてきた。毎日おかずの一品か二品は電子レンジに頼っているから、ほかの家電よりも贔屓してしまうのは仕方ないと思う。もちろん冷蔵庫だって洗濯機だってほとんど毎日働いてくれているのだけど、なんていうか、温度が違う。ひとは温かいものに惹かれてしまうものだ。

ところが先日、ケーキを焼いてから様子が変わってしまった。
うちの電子レンジにはオーブン機能がある。オーブン機能があるものをわざわざ選んだ。お腹いっぱいケーキが食べたかったからだ。
電子レンジともなかなか分かり合えて、すっかり仲良くなってきたからそろそろケーキも調理して良いんじゃないかと思っていた。

ケーキを焼いて、庫内を温かい布巾で拭く。
いつもより高い温度を要求してしまったから、労うつもりで重曹も使って、そのあとレモン汁も使った。レモン汁だ。食用のレモン汁。なんと贅沢なことだろう。きっと電子レンジも喜ぶはずだ。

ぬれ布巾で拭いて、重曹入りぬれ布巾で拭いて、レモン汁入りぬれ布巾で拭いて、乾いた布巾でも拭いた。
やり切った。電子レンジにとって最高の慰安だと思った。

そうしてみて、電子レンジの様子を伺ってみた。屈んで庫内を見回した。
さぞかしピカピカだろうと期待して。

ところが、だ。
汚れているのだ。

天井に、茶色い汚れがこびりついている。

今日だけの汚れじゃなかった。

拭ったつもりでいた汚れが積もり積もって、220℃で焼いたら、浮かんで、びっしりこびりついてしまった。

それから2時間格闘しても、電子レンジの汚れを完全に落とすことはできなかった。

大切にしていたつもりだったのに。愛してさえいたのに。

この日チーズケーキと引き換えに、電子レンジは新品ではなくなったのだ。

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