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11 腎生検における腎臓愛

腎生検は何をするか

(隣人患者の悶絶マッサージを聞きつつ書く)
腎生検が無事終わり、昨日から今日の朝までベッドのまま身動きは制限されていた。覚えてるうちに書く。

そもそも、腎臓の生検は何をするかというと、背中から腎臓に向けて針を刺し、地層調査のようにボーリングして、ボールペンの先ほどの細長い組織を取り出して組織を顕微鏡で調べる。組織には腎機能の主役を成す単位「糸球体」がきちんと取れていないといけないから5か所刺してとる。

糸球体とは毛細血管がさらに枝分かれしたほそ〜い血管の毛玉(0.1ミリ~0.2ミリ)みたいなもので、大きなもの(赤血球とか)を通さず、小さな老廃物を濾して尿細管に渡す。尿細管はそのあと必要な小さな栄養素と水分を化学的に再吸収し運びリサイクルする。(その量およそ一日150リットル。尿になるのはそのうちたったの1パーセント!)
糸球体と尿細管の絡み合ってこんがらがったようなかたまり一つ一つを「ネフロン」というそうだ。ネフロンは片方の腎臓に100万個くらいあって(!)それぞれ独立して(!)働く。しかも、全部がいつも働いているわけではない(!)。ちょっとググっただけだが、何もかも知らないことだらけである。なるほど、仮に腎臓が一つ失われても大丈夫というのは、そういうわけなのだな。先生の言葉で言えば「腎臓は非常に柔軟性のある臓器」なのだ。

私の病気は何らかの理由でこの糸球体にダメージが起き、その結果、腎機能が高度に阻害されている状態だから、大事な糸球体がどのようなダメージ状態なのか、細い血管を攻撃して悪さしている抗体がいるか、その形跡はどんなものかを調べて診断を確定させる。それが腎生検。見えた状態によって異なる診断がなされる。一帯が「焼け野原」になってることもあるという。

「背中からボールペンを刺す」と、何度想像しても痛そうだ。そう言えば、肺の病気になった親戚が、病室で麻酔もそこそこに横っ腹から肺に直接管を入れられたという話も聞いた。なんと恐ろしいことだろう。それは絶対にごめんこうむりたい。肺じゃないから大丈夫か。どうか現代医療が野蛮でありませんようにと祈る。ありがたいことに、以前、腎生検を受けたことがある方が連絡をくれてちょっとしたコツを教わった。”背中をグーっと押されるときに力が抜けて「ふにゃー」っとなると、もう一度やり直しになるから、そこはがんばって堪えるべし。”大変、参考になりました。ありがとう。


腎生検ツアー開始:すでに酔っ払い


当日は、朝もちろん御飯抜き。7時ごろから準備の点滴→バルーン(尿のカテーテル)→CTの部屋に車いすで移動→エコーをしながら検査→ストレッチャーに乗って帰ってくる→というツアー。
私はバルーンが一番嫌なところ。そんなとこに管なんかはいらないよーと思っていた。男性はもっともっと痛く苦しいらしいよ。気を付けよう殿方。病気にならないように!

実際、カテーテルを入れる役の若い看護師さんは絵にかいたような試行錯誤をしていた。二回チャレンジして難産(生んでないけど?)。一旦、休憩を入れてもう一度トライするも惜しくもリタイア。よく頑張りました。若いからまた頑張って!と心の中で励ます。その後、最終的に達人看護師さんが現れ、すすっとやってくれたが、既に時間がかなり押していた。

この時点で私は、もうすでに何か大変なことをやり遂げた感が湧き、点滴されていた麻酔も回ってきて、頭がぐらーっとしてハイな気持ちで初の車椅子を体験することになる。
押したことはあるけれど、乗るとこんな感じなのか!感心!看護師さんは勢い検査室に行きたいから、速度が速い!早いと怖いもんだな。。。これからは私もユーザーフレンドリーな押し方にするぞ。だがなぜかウキウキ気分である。頭ぐるぐるでビューンとぶっ飛ばす感じ。おや、この感じはなんだろう?なんだっけ?これ。
そうか、酔っぱらった時の感じね!!ははは!薬だから、とんでるってやつね、ははは!!!

CTのお部屋に到着。主治医のスリム美人先生がお待ちかね。まだ普段と同じえんじ色のスクラブ服を着てる。CTの台にうつ伏せに寝かせられると、どこからともなく手が出てきて腕に血圧計を付けたり、指に脈拍と酸素を図る装置を付けられた。ちょっとドキドキしたら「緊張したかな?血圧あがりますよね。」って言われた。
大きな音で「ピッピッ」って聞こえるのは私の脈拍なのかな、ドキドキしたらドキドキがみんなにばれるちゃうってわけよね?はずかしい!!!
その音をバロメーターにして、ピッピッの間隔が開くように自己暗示をかけてみたが、これはなかなかいい方法。これ、簡易版作ったら自己鍛錬ツールになる気がする。単なるに機械音だったら笑えるが。

先生は、ガラス窓の向こうの放射線技師の人とやり取りしながら撮影位置をチェック。もっと上に、とか、もっと右とか言って調整。私は枕を抱えやすいようにタオルを借りた。その間、どんどん酔いが回って何か喋ってる自分の声。
「先生がやるんですか。一人で?」
「私がやりますよ。あとから手伝う人がきます。」
そこへ「こんにちは」ってサブ担当の女先生が来た。
「こんにちは先生、今日はまた目も覚めるよういでたちですね・・・」
トルコブルーのような服を着ていたから。色違いのスクラブ着てる。先生たちは笑ってた。
「ふつうは水曜日にやるんですけど、やすださんは早いほうがいいから今日なんです。」
その後、検査室の人数は増えていった、背中越しだから気配しかわからないけど。

上に書いた理由により、片方の腎臓だけに針を刺して組織をとる。検査中、何かの理由で問題が起きたとしても、もう一個の腎臓がバックアップしてくれるって。ありがたいね?腎臓さん、どうして二つあるのかな?すごいね?
だから、腎臓が一個しかない人は腎生検できないんだって。その「もしもの時」というのは1000に一つくらいの確率。と同意書に書いてある。でも、主治医はドクターXばりに「私は見たことがありません」と言ってた。かっこいいな。先生はいつの間にか手術着になっていた。シャンプーハットもとい、シャワーキャップをかぶって。

「先生、かっこいいですね。写真撮りたいです。」
「そうですか?うれしいです。ちょっとエコーみますね。練習しましょう。息を吸って、吐いて~、はいそこでとめて!」
という具合に息を止める練習。ここが肝心なところだな。ふにゃっとしちゃいけないんだな。吐いている途中で息を止めるのは案外難しい。「もう一度やらせてください」といって自主練。

「組織をとるときにこういう音がしますよ。驚かないように、練習で鳴らします。カシャン!この音。この時、動かないでくださいね。」金属音かとおもったらプラスチック音のような気がするな、と余計なことを考える。
「じゃ、麻酔しますね~。ちょっと痛いです~。ごめんなさーい」と言われた。このように一つ一つの動作を口頭で予告しつつ、いつでも気持ち悪くなったりしたらとめますからね、って言ってくれるのはとてもありがたいですね。野蛮ではないです。問答無用の雰囲気がまるで感じられない。素晴らしいですね。麻酔は歯の麻酔と同じぐらいの痛みだった。思ったより大丈夫。


本番!監督!私もチームの一員として参加させてください!


本番は、先生と私、二人で初の共同作業!ピッチャーとキャッチャーみたいな感じ。先生投げたら私受ける!5回カシャンってやったら終わりだから頑張る。

思い起こせば、腎生検することになってからずっと(弱虫の人には全身麻酔で知らないうちにやってくれ~!!!!!)って思っていたけど、昨日の私は(安田もチームの一員として参加します!!やらせてください!監督!)という超前向きな感じで、自分でいうのもなんですが、とてもいい患者でした。

こんなときこそ、アレクサンダーテクニークの出番だぞ、と首を自由に頭の方向を思って力まないでできたし。
「カシャン、とても上手ですよ~。はいもう一度行きますね~カシャン・・・」
案外できたよ自分!えらい!でも、三回終わって四回目、いてて、こりゃ五回が限界だわねと思った。
先生は病理の人と話している、それで、
「やすださん、とてもよく取れたから、これで終了でいいそうです。おっけーでーす!」と言った。

ばんざーい!

(お気づきの方もいらっしゃるだろうが、この時点では検査が終わっただけで、結果がいいとか悪いとかわからず、まだなんの治療もされていないってことを忘れているのだ)

「それでは私がこれから15分くらい抑えて止血します。押しますから我慢してくださいね。」
と言って、先生が背中を押した。(いつ脱いだの?手術着、早変わり?)気の利くスタッフが台を持ってきてくれて、先生はその上に乗って私の背中に体重をかけてギューッと。

(腎臓は上に書いたように血管の塊!なので止血が大変。このあとIKEAの配送くらいぴったりしたラッピングシールをはられて、仰向けになって背中に砂袋を挟み自重で止血。足も動かさない。手と首は動かせる。そのあと少しだけ動いていいけど、食事もベッドに水平に横たわったまま。これはなかなかワイルドな体験だった。)

腎臓内科医の腎臓愛

背中を圧迫されながら、
私「お話してもいいですか。」ときいた。
医「いいですよー。」
私「穴が開いた腎臓はどうなるんですか。もうダメですか。」
医「これぐらいだったら、ぜんぜん問題ないです。」
私「まだ働きますか。」
医「もちろん。できるだけ端っこを少しだけもらうようにしたから心配ありませんよ。」
私「聞くところによると、腎臓内科にとって腎生検ってある種イベントなんだっていうのはほんとですか?」
医「ふふ。イベント?そうですね、普段は水曜日にやるんですが、今日は火曜なんで人がすごく少ないです。水曜だったら、ここらへんに腎臓内科の人がみんな集まってきます。ふふふ。」
私「ふふふ」
私「先生、どうして腎臓内科になりましたか。腎臓がすきだったんですか?」
医「えーと、私は初めから腎臓だったんですよね~。学生の時からなんか腎臓だったんです~。うーん、腎臓内科の先生って、 

 ネチネチしてるんですよ。」

私「え?」
医「なんかネチネチしてるの。腎臓内科の人って。それが好きだったみたい。」
私「ネチネチしてるのが好きなんですか・・・?」
医「こー、あーでもないこーでもないとか。ずーっとやってる」
私「はぁ、、、(ネチネチが余韻をひきつつ・・・)。
そういえば、この前の担当の先生は、話の途中で必ず ”僕は腎臓医なんで!”とか、”腎臓医としては”、って言っていて、腎臓が好きなんだな、って思いましたが、そんな感じ?」
医「あはは、それは面倒だな!」
私(面倒。。。。?)
医「あとは、腎臓って死なないんですよ。(^^) 人って、腎臓の病気で死んじゃうことがないんです。だから、患者さんと長い付き合いになるんですね。」
私「あ、そうか、透析とかね」
医「そうです。悪くなっても透析。でも死なないです。治って終わりというより、私は患者さんと長い付き合いのほうがいいかなとおもって。」
私「ふうん。そういえばこの間NHKで腎臓の特集やってましたよ。」
医「そうそう!みました!すごくうれしかった!腎臓ってほんと、すごい臓器なんですよ~!目立たないから、ああやって紹介してもらえてうれしかったです~。(*^^*)」
私「腎臓すごかったです。」
医「そうです。腎臓っていいんですよ~」
と、つかのま、腎臓内科医の腎臓愛を垣間見たのだった。

でも、一番その愛を強く感じたのは、ストレッチャーで部屋に運ばれる前、撮った組織をどうするのか、いつ診断がつくのかという質問をしたところ、3週間くらいかけて専門家のところで細かく一つ一つの糸球体や細胞を染色して精査する作業があると説明したあと先生が言ったこと。
「全部の糸球体を一つ一つ細かーく染めて、これはこうなってるとか、調べるんです。

小っちゃくて かわいいんですよ~糸球体って!」

(゜o゜)、、、かわいく見えてきた。うん。先生。
私も糸球体がかわいく見えてキタ――(゚∀゚)――!

初ストレッチャー移動は医療テレビドラマっぽかった。
そのあと一日動けないのもつらかったけれど、アレクサンダーで乗り切りました。
写真:糸球体NHK「人体」ウェブサイトより

https://www.nhk.or.jp/special/jintai/zukan/parts/kidney

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