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固定電話との別れ

最近、インターネットのプロバイダを変えたタイミングで、固定電話の契約をやめた。

結局固定電話なんてセールスの電話しかかかってこない上、
FAXなんてもう二度と使わないし。

電話機は年季が入っていたし、
メルカリでもそんなに高く売れなそうだったので
小型家電の収集日に捨ててしまった。

でも、ふと思った。

「お父さんからの電話は、もう二度とかかってこないんだよな…」

それを思ったら涙が止まらなくなった。


恥ずかしながら、私は長いこと
父に毎朝モーニングコールを頼んでいた。

父は機械より正確に毎朝5時に起きる上、
律儀なので頼んだ時間に電話をくれた。
目覚まし時計なんて電池が切れたら鳴らないけど、その点父に頼めば120%確実だった。

父は、自閉症気味なのかなと思う所もあり
問題も色々ある人だったけど、
一度約束したことは何があっても守ってくれた。

恐らくアル中だったのだろう、
週7で浴びるように飲み、いつも酒臭かった。
母に暴力を振るったりもしたし、
私も何度も殴られた記憶がある。

それでも、私は父が好きだった。
怒鳴っても、サッパリしていてすぐ忘れる。
口数も少なく、子育てに携わる余裕も時間も無かったけど
遠巻きに私たちを見守ってくれていた気がする。
命を削って働いてくれていたのは言うまでもない。



モーニングコールを頼んでからというもの、
父がキレやすく怖いので、
毎朝飛び起きるようになった。

一度、しばらく気付かなくて電話に応答できず、
父が10分電話をかけ続けたことがあり、
恐る恐る出たら
「何十回かけたと思ってるんだーーー!!!

と激おこで、ガチャ切りされ震え上がったこともあった。

それ以来、更に目がぱっちり冴えて秒で起きられるようになった。笑

月〜金、十何年も、毎朝毎朝固定電話が6時ぴったりに鳴った。
1秒もたがわず、6時00分00秒に鳴った。
「おう、起きたか」
「うんありがとう」
このやり取りを毎日していた。

2年前の7月のあの朝も。

朝、いつものように私にモーニングコールをくれた後、突然父は脳梗塞で倒れた。
長年の不摂生が祟ってしまったのだと思う。
一瞬にして、父は半身不随になってしまった。
家で生活出来なくなり、今は施設で生活している。
呂律ももう上手く回らない。


あの朝の電話が最後だった。
それを思うと、今でも泣き崩れてしまう。

固定電話も需要が減り、
時代も移り変わっていく。

当たり前に思っていた父のモーニングコールも
突然終わるとは思っていなかった。
お別れは、何にせよ辛い…


集積所に捨てられた古びた電話機を見ながら、色んな思いが渦巻いた。




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