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『レモンドロップ』映像化のメイキングと解説(1/3)

 2020年冬に開催されたリライト小説コンテスト『クリスマス金曜トワイライト』。その総合大賞受賞作品の映像化に参加させていただいた。受賞作品はこちら。

 この作品が映像化されました。

 なんと2バージョン!!

 映像化チームによる裏話はマガジンにまとめられているので合わせてお楽しみください。

 前回はこれに参加することになったいきさつを書いたので、今回は映像のメイキング、いかにして湖嶋いてらさんの小説が映像になっていったのか、という部分を、わたしが参加してからの1か月間にフォーカスして、少し詳しく解説してみたいと思います。「映像ってこうやって作るのか」という部分を楽しんでもらえると幸いです。

はじめにアイデアがあった

 何はなくともアイデア。何であれ創作の根っこにあるはずのもの。アイデアだけあっても何も生まれませんが、アイデアがなければそれこそどうにもならない。アイデアさえあれば、そこには可能性がある、はず。わたしがチームに合流したのは1月7日。最近風に言うと「ジョインした」のかな。

 その日共有されたのは池松さんがカフェで描いたというメモでした。

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 実は、このメモにもう、映像になれる要素が全部詰まっています。完成映像を見てからこのメモをご覧になると、全部ここに書かれているということがわかると思います。前回のnoteで「思った以上にまずい」と感じたことを書きましたが、同時にこれを見て「池松さんの中にはちゃんと映像がある」ということもわかりました。1か月しかないことを思えばピンチではあるけれど、これならちゃんとした映像を作れる。

 しかし。このメモから映像を作るには、まだいくつか整理しなければならないことがあります。そこでこれを絵コンテにします。絵コンテというのは音楽でいうところ楽譜のようなもので、それがどんな映像なのかを書き表したものです。コマの中に絵が描いてあるので漫画のようなものと思っている人もいますが実はまったく異なります。

絵コンテ

 コンテは実際の画面と同じ縦横比で絵を描き、どんな芝居がされるのか、どんな音声が入るのか、どのぐらいの長さなのか、といった情報が書かれたものです。上のメモにもある程度書かれているので、まずはそのままコンテとして書き起こしてみました。ここでは抜粋で紹介します。

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 このように、カットナンバーを振って、カットごとにどんな映像になるのかを書いていきます。ちょっと待って。カットってなに?

カットとは

 絵コンテを書くとき、映像をカットに分解して考えます。カットとはなんでしょう。

 カットというのは簡単に言うと、カメラが切り替わるタイミングで映像を分解した単位です。例えば皆さんがスマホで動画を撮るとき、撮影開始のときにボタンを押し、止めるときにまたボタンを押しますね。その、撮影を始めてから止めるまで。これが1カットです。

 最近、「ワンカット長回しの映画」みたいな宣伝文句を見かけるようになりました。これは撮影を始めてから止めるまでが長い、つまり撮影を止めずにずっとカメラを回し続けて一連の芝居を撮影する、という意味です。(そういえばそのままずばり「カメラを止めるな」という映画もあったね)

 カメラを止めない限りカットは続くので、撮影しながらカメラが移動してもそれは1カットです。今回はアニメーションなのでカメラは使いませんが、アニメの場合は実写だとしたらカメラが切り替わるところまでを1カットとします。これはだいたい「背景の絵が切り替わるところ」と同じです。

 余談ですがカットのほかにシーンというのもよく聞く用語です。シーンはだいたい同じロケーションの部分をまとめたもの、と思ってください。学園ドラマなどであれば「教室のシーン」とか「通学路のシーン」という具合。それぞれのシーンは複数の「カット」で構成されます。今回作った映像は「映画のCMのようなもの」を目指しているため、シーンという発想はありません。1シーン1カットのような作りになっています。

アニメと実写はぜんぜん違う

 さて、今回このクリ金トワ映像化プロジェクトは、ちょっと変則的なアニメとして作られることになっていました。猫野サラさんが絵を描き、それを使ってアニメ風の映像にする、というもの。

 当初このプロジェクトは「動画編集者」を募集していましたが、実はこの「絵をもとにアニメ風の映像を作る」というのは普通の動画編集のプロを連れてきてもできません。なぜなら、アニメと実写はぜんぜん違うからです。

 一般に動画編集というのは、上記のように「カット」単位で撮影された映像をつなぐ作業です。この「つなぐ」部分が編集。音声も含め、どういうタイミングでカットを切り替えるのかを調整します。編集は映像において最も重要な要素で、「監督」のメインの仕事はこの編集と言っても過言ではありません。絵コンテを自分で描かない監督でも、編集に立ち会わない監督はまずいないでしょう。

 しかし、編集というのはかように重要ではありますが、撮影された「カット」の映像がなければ手も足もでない。編集自体は何かを生み出す作業ではなく、撮影された映像や作られた音楽、収録された音声などを組み合わせて映像作品に仕上げる工程です。つまり先に素材がなければ編集はできない。

 アニメの場合、絵があってもそれだけでは「カット」になっていないのですね。アニメーターの描いた絵(と本来のアニメであればアニメーターとは別の人が描いた背景美術)をカットの映像に仕上げなければならない。そのようにしてできたカットがあって初めて、編集ができる。

 つまりこの部分なしで編集者だけを用意しても何もできないのです。これが、前回「紙芝居みたいになってしまうんではないか」と書いた理由です。サラさんがどんなに良い絵を描いてもそれは映像のカットではなく「絵」なんですね。その絵だけをいわゆる映像編集として並べてもスライドショーにしかならない。スライドショーに音楽が付いている、みたいなものになるわけです。

コンテで映像を作る

 コンテができたのでこれをもとに映像を作るわけですが、今回はまず、このコンテの絵を使ってもう映像を作りました。実写ではVコンテ(ビデオ・コンテ)などと呼ばれるもの、アニメではコンテ撮(さつ)と呼ばれるものです。

 まずはコンテの絵を使って各カットの映像を作ります。

 絵というのは止まっていて静止画ですが、絵が例えば一秒間表示される映像は「映像」。絵に時間という要素が加わると映像になるわけです。そのようにしてすべてのカットを指定通りの長さのムービーファイルにし、それを編集ソフトで編集して一本の動画にしました。この時点では仮のBGMがあるだけの、コンテの絵だけを使ったそれこそスライドショーみたいなものです。この最初のバージョンは1月11日に共有していて、33秒でした。

 池松さんのメモをそのままコンテ化し、それを映像にしてみたら33秒で、かなり目まぐるしい映像でした。重要なのは、このように映像として編集してみることで、「目まぐるしいな」と感じられることです。

 最初のバージョンを共有して、わたしはこんなメッセージを添えていました。

スタッフクレジット短すぎる気がするのと、後半単調な気がするのでもう少し尺取った方が良いかもしれませんね。

 映像の途中で「イラストレーション 猫野サラ」みたいな字が出ますが、それが短すぎて読みづらいということを言っています。こういう時間の感覚ってとても難しくて、映像として作ると1秒ってけっこう長いんですが、文字を読ませるには短い。しかもフェードイン(ふわっと出てくる)やフェードアウト(ふわっと消える)などを付けるとその分完全に見えている時間が短くなるので、余裕を持った長さにしないと読めない。

 このバージョン1の共有後、池松さんからナレーション原稿をいただいたので、仮ナレーションを入れてバージョン2を作ります。このとき、その他の部分も長さを調整して、慌ただしかったり文字が読めなかったりするところを直しました。バージョン2は1月12日(翌日やね…)に共有していて、55秒に伸びてます。

ナレーションを録音する

 もともとわたしはナレーションを頼まれたので今回ここが本業ということになりますが、ナレーションと言ったって遠隔リモート連携チームでのこと、録音はどうするのかという問題があります。わたしがどこかへ出向いて録音する、というのは現実的ではない。そもそも録音スタジオなどを借りるような予算や時間は、といった問題もあります。

 そこで自宅録音になるわけですが、わたし実は自宅にコンデンサーマイクやオーディオインターフェイス、音楽制作ソフトなど一式揃えてまして、スタエフも第15回からはスタエフアプリではなく音楽制作ソフトで録音しています。

 音声の録音はとてもデリケートです。人の音声には実は不快なノイズが大量に含まれています。リップノイズやポップノイズといったものが有名です。リップノイズは簡単に言うと閉じている唇が開くときに出る、口腔内や唇周辺の唾液が発するぴちゃぴちゃした音。ポップノイズは半濁音(パ行)や一部の濁音(バ行やダ行)などの音で発生する衝撃音(破裂的に飛び出す呼気がマイクを直撃することで瞬間的に入る大きなノイズ)を指します。ほかにも、サ行で出やすい高音の「シャ」というノイズ、環境音として入ってしまうノイズなど、多くのノイズが紛れ込むわけです。

 近年はこれを除去する優れたソフトウェアがあるため、細かい調整をしなくても簡単に取り除くことができます。

 スマートフォンなどではデバイスの録音機能にこうしたフィルタが付いていて気になりにくいようにしてありますが、逆にノイズリダクション(除去)がかかりすぎていて音声そのものまでやせ細ってしまうという問題があります。

 今回は音声は細かい部分まで収録できる機材で録音し、録音したものに含まれているノイズをノイズリダクションソフトウェア(厳密にはプラグイン)を使用して除去しました。ほかにも周波数バランスの調整や音圧の調整などをかけて、1フレーズごとに音声ファイルとして書き出し、映像編集のソフトウェアに持ち込んで並べました。

※プラグインというのは何らかのアプリケーション(独立したソフトウェア)に追加して使うソフトウェアのことです。

 ナレーションそのものの裏話は別途スタエフでお話する予定です。

 さて、どうやらものすごい長さになりそうなのでここらで一度切りますね。実際に映像をどのように作っていったのかは次回ご紹介します。

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涼雨 零音
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