[映画]シェイプ・オブ・ウォーター
今夜のU-NEXT は『シェイプ・オブ・ウォーター』。2017年の作品。
この作品はタイトルやキービジュアルの印象と本編の印象が大きく異なる。いや、見終えてみれば印象通りのラブストーリーなのだけれど、序盤からの意外性が高い。結末が意外なのではなく、事前に出した印象と本編の序盤が異なる、という珍しいタイプの作品と言える。
ごく雑に言えば、主人公は声を出せない女性で、その主人公と半魚人のような未知の生命との心の交流、言い切ってしまうなら、「恋愛」を描いている。そのラブストーリーを軸に、いろんな要素をゴテゴテと付け加えてあり、いったいなんなのかわからない映画として展開される。
半魚人的生命体はアマゾンで発見されたとかいうことで、宇宙生命研究所的な施設に運ばれ、研究されている。その管理が、極めて杜撰だ。実際にこれほどの未知の生命体が発見され、アメリカに運ばれたとしたら、おそらく軍の施設など堅牢なセキュリティのあるところで研究されるであろう。間違っても、一掃除屋が茹で卵食わせたりできるはずがない。
この、生命体の特殊性、希少性などに照らしてあまりにもゆるい管理は、もちろんストーリー展開に必要な都合による。さらに、この施設に研究者としてロシアのスパイが入り込んでおり、このスパイがロシアの仲間と連絡を取ったりもするのだけれど、ほとんどギャグみたいなやり方をしている。スパイものではないのだからちゃんとしてなくても良いのかもしれないけれど、いくらなんでもそれはない、と言いたくなるゆるさである。
そんな具合に、美しいビジュアルとは異なるSFっぽい展開を見せるけれど、設定は穴だらけであり、ラブストーリーとして収斂していくまではコメディとして見た方が良い。しかしコメディとするにはいまいち笑えないため、どうしていいのやらよくわからない。
中盤以降は主軸がラブストーリーにシフトするけれど、相変わらず笑いにくいコメディ要素は散りばめられている。しかし軍が絡むスパイ的あれこれの説得力の無さや、悪役の描き方への疑問などがこのコメディ的要素によって緩和されているような気はする。おかげでスパイがどうだ軍隊がどうだという話には目を瞑り、ラブストーリーとして見ることができる。
また、主人公の周囲に散りばめられた人々はそれぞれの意味でマイノリティであり、そのマイノリティたちが卑屈にならずに生きている姿を描いている。
ラストには驚きがあった。冒頭から出されていた設定が思ってもみない形で回収される。ああそうだったのか、と合点が行く。なぜこの主人公は「声」を失っているのか。ラストシーンでその意味が回収され、見ていてカタルシスがある。
終わりよければすべてよしでもないけれど、途中まで気になったご都合主義的要素はラストまでは引きずらず、後味はとても良い。
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