TA #こんな仕事です
こちらの企画への応募作、第三弾。他にもいろいろあるんだけど期限を考えるとこの辺で打ち止めかなということで、今回はTAという仕事を紹介します。
TA。テクニカルアーティスト。そもそもこの言葉、聞いたことあります?
テクニカルアーティストを一言で説明するのはちょっと難しいけれど、雑に言えば、テクノロジーとアートの間をつなぐような仕事、と言える。
みなさんも多分ご存知の、ジョン・ラセターという人がいる。知らない? 「トイ・ストーリー」の監督で、原案も考えた人、と言えば「あぁ、なるほど」ってなるよね。多くのピクサー作品で監督やプロデューサーをやってる人物。CG界では神様みたいな人です。
彼の有名な言葉に次のようなのがある。
アートがテクノロジーに挑戦し、テクノロジーがアートを刺激するというような話でありますね。こと、CG(コンピュータ・グラフィックス)というのは、テクノロジーとアートが交わった領域で、このようなテクノロジーとアートの相互作用がいろんなものを前進させやすい。
CGの黎明期には、CGはテクノロジーの理解が無いと扱えないような代物であったため、CGクリエイターはだいたいテクノロジー寄りの人だった。これが、CGを扱うアプリケーションの進化に伴い、テクノロジーに疎い人でも操れるようになった。その結果、アート専門のアーティストがCGを駆使して作品を作る、といったことも可能になった。
で、CGアプリケーションを開発するエンジニアと、それを使うアーティスト、という図式が出来上がるわけだけれど、この中間に、アーティストほどじゃないけれどアートもわかり、エンジニアほどじゃないけれどテクノロジーもわかるといった人がいると、一気に表現の幅が広がるわけです。ここを担うのが、テクニカル・アーティスト。
例えば、あるアーティストが、とんでもない映像表現を考えたとする。しかしそれを実現するにはものすごい力技が必要。膨大な計算リソースを使い、気が遠くなるほどの手作業の果てにやっと0.1秒の映像ができる。
いくら素晴らしい表現でも、これでは形にできない。採算もとれないし、そもそも作品として仕上げるのに何年もかかってしまう。そこで、これを効率化し、量産することはできないか、といったことを考えることになるのだが、これは純粋なアーティストには難しく、同時に、専業エンジニアだと、表現のどこを重視すればいいのかわからず、最適解を出せないといった問題もある。
そこで、アーティストの要求を芸術表現のレベルで理解し、それを現実的なフローに落とし込み、必要ならばプログラムを開発したりすることができる人が必要になるのである。
僕は当初音楽の仕事をしており、30代に入ってから映像クリエイターになった。当初は映像クリエイターとして仕事をしていたのだけれど、30代のクリエイターたちはアーティストとしてのスキルが非常に高く、後発の僕は彼らに比肩するのが難しかった。若く優秀な人もどんどん入ってくる中で、自分の存在意義を確立するには何かしらアドバンテージが必要だった。
かといって高校を出てすぐ音楽の世界に入っていた僕はCGに必要な線形代数(大学に入って最初にやる数学)をやったことがないし、高卒レベルの学力しかない。プログラミングも一切やったことがない。そんな状態からではあったものの、アーティストの現場にはそのレベルでもできる人がおらず、これを少しでもできれば強みになるのではないかと思えた。
そこでプログラミングを学びながら線形代数を独学し、情報処理やグラフィックエンジニアの資格を取ったりして、晴れてテクニカル・アーティストとして仕事ができるようになった。当初は「ちょっとプログラム書けるアーティスト」という感じだったのが、次第にテクノロジー寄りの部分が増え、いつの間にか「アートもわかるエンジニア」みたいになっている。今や周囲の人は、かつて僕がまったくテクノロジーの入らないアーティストをやっていたことを知らなかったりし、まったくアートのわからない人という前提で話をされることもある。
なってみるとこのTAという職種は出来る人が少なく、引く手数多であることがわかった。考えてみれば全く違う二つの領域を兼ね備える必要があるから身につけるのが難しいのかもしれない。
いろんな領域で、このような「間を埋める仕事」というのがあり、その部分は手薄だったりするのでねらい目である(なんの?)。
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