[掌編]口と工の邂逅
口には好きな相手がいた。相手は工といった。隣に並びたいといつも思っていたが、並ぶことははばかられた。工と口が並ぶことに何ら問題は無いはずなのに、たまたま工はエに、口はロに似ていた。うり二つなのだ。人という身勝手な連中が文字を弄ぶ。文字はただ文字であるのに、漢字から見分けがつかないほどそっくりなカタカナを作り出し、一つ一つは意味を持たないカタカナを並べてそこに勝手な意味を付与した。そのせいで口は工の隣に行くのをためらい続けることになったのだ。
ある日、口は一に出会った。一にはそっくりの兄弟が大勢あり、よく二や三となって出回っていた。口は一に申し出た。
「あなたたちと合体したい」
一はあっけなく「いいよ」といって兄弟を集めた。一と一と一と一が口の上に乗った。言になった口は工の元へと急いだ。
「悪く思わないでね」と小さく呟いて言は持ってきた弋を工の上に振り下ろした。「ヱ」といって工はひしゃげ、式になった。「ほら、これであなたと一緒にいられる」といいながら言は式の隣に寄り添った。
「試という字はこうしてできたんだよ」と父が言う。
「嘘でしょ」
※この作品はTwitterで行われた「匿名超掌編コンテスト」に出品したものです。
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