慣れないことを
おまえがそんなことをするなんて明日は雪かな
慣れないことをするもんじゃないね
知恵熱ってやつかな
いろんな言葉が浮かんでは消えた。
10月31日。中学一年生の長男は定期試験を控えていた。試験勉強どころか日々の勉強もまったくやらない。前回の試験では点数が地を這い、だいぶまずい事態であったが本人に危機感はない。周りの友達は日ごろから塾へ行っていたり試験前ともなれば試験対策に勤しんだりしている。先日ようやく持たせたスマホでも、友人たちから試験範囲についての話題などがLINEで入って来たりしていた。
それでもなお、うちのセガレは何もしない。
先週末、想像を絶する散らかりぶりを発揮していた子ども部屋を大々的に片付けた。およそ半年分の学校で配られたプリントの山が、あちこちから発掘された。提出物は一切提出されておらず、おうちの人に渡してね、なプリントは一枚も渡されることなく、すべて死蔵されていた。
その中から数学と英語の課題と思しきプリントをいくつか読み上げてやらせてみたところ、なに一つ理解していないことが露見した。もはや間に合うはずもないから少しでもあがくぞ、と言ってセガレを励まし、一つ一つ解説した。
おとといの夜、試験二日前、相変わらず危機感のないセガレを鼓舞し、もう明日しかないから、明日一日は最後の悪あがきをしような、と話した。一問でも多く確認して、できることを一つでも増やそう。学校から帰ってきたらそういう気持ちでプリントをやれよ。
迎えた試験前日。セガレは僕が仕事を終えてリビングに出てくるまで、なにもしなかった。なぜなんだ。もうどうしようもないのか。あれほど最後一日ぐらい頑張ろうと言ったのに、それすらもできないのか。
ほとんどめまいがしながら、夕食後に数学を少しだけ一緒にやった。ものすごい基本から理解が怪しい。意味と考え方をひたすら教えながら問題を解いたが、もはや時間がない。中学生にもなれば試験勉強で未明まで頑張る子だっているだろうが、うちのセガレは22時30分ごろには就寝した。
しかしなんの奇跡か心境の変化か、31日、試験当日。朝6時すぎに僕がテレビ体操をするために起きてきたら、セガレはリビングで勉強をしていた。6時に起きて最後の確認をしていた、と。漢字と英語の復習をしていた。
そうか。やる気になったのか。あとはもう試験中に途中で投げずに、一点でも多くもぎ取ってやるという心意気で挑めよ、と話して送り出した。どのみちひどい結果になるのは目に見えているのだが、それでも最後のわずかなあがきがきっとほんの少しだけ結果を改善するだろう。心の中でエールを送りながら僕は在宅で仕事をした。
午前11時すぎ。学校から電話が来た。セガレ君は具合が悪くなり、熱を測ったら38度7分もあると。試験は三科目目まで頑張ったんだけど早退させたい、熱が高いのでできれば迎えに来てほしい、と。
あっっっちゃーーーー。
電話口で先生に向かって叫びそうになった。普段7時に起こしてもなかなか活動できずにしばらく布団の上に座っているようなセガレが、この日自主的に6時に起きて試験勉強をしたというのに。やはり慣れないことなんてするもんじゃないのか。よりにもよって雪が降るでも槍が降るでもなく、本人が熱を出すとは。これが知恵熱というやつか。普段勉強をしなさすぎて、あんなちょっとしか勉強してないのにもう脳みそがオーバーヒートしたのか。
悔しいやら気の毒やらで車を出して迎えに行った。
不幸中の幸いか、ほんのわずかに確認をした英語、国語、数学の三科目は受けることができたらしい。とはいえ、ねぇ。おめーは本当についてねぇなぁ。
夜はカレーを作る予定になっていたのだけれど、体調を崩していたらそれも食べられんかな、と気の毒に思っていたのに、「腹減った」と言って出てきてペロッと平らげた。おい、元気じゃないか。熱測ってみろ。
38.6度
カレーを平らげたあとフルーツゼリーと柿を父さん(わたし)の分まで食い、食い終わったらさっさと寝床に戻って行った。
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