[映画]月に囚われた男

　今夜のU-NEXTは『月に囚われた男』。2009年の作品。

　まったく知らなかった作品で初見だったのだけれど、大好きなタイプのSF作品であった。

　月の裏側で発見されたエネルギー源によってエネルギー問題が一気に解消した未来世界。その月面での掘削作業を担当するために滞在している一人の男を描いた物語である。3年サイクルで交代しながら掘削の管理をするたった一人の担当者は、基地の維持管理を行うコンピュータだけを話し相手に3年の滞在期間を過ごしている。通信機は太陽フレアによって故障してしまい、地球とのリアルタイム交信はできない。地球とのやり取りは木星を経由するため、録画したものを送信し、それに対して返信が送られてくる、というようなやり取りになっている。

　日々同じ作業を繰り返し、あと二週間で任期を終えるというタイミングで、主人公は事故にあう。この事故をきっかけに、物語は思わぬ方向へ転がり始める。

　細かい設定を散りばめたSFでありながら、ごく限られた範囲だけを舞台にわずかな登場人物で物語を運んで行く。その感覚が実にうまい。おそらく予算的な制約の中で工夫されたものなのだろうけれど、SF的センス・オブ・ワンダーを残したままドラマを描いている。ほとんどが狭い基地の内部で完結していて、この内部は重力も地球と変わらず、地上と何ら違わない世界として描かれている。SFとして突き詰めればいろいろとツッコミどころもありそうだけれど、主人公の悲哀を描いたドラマという風に映るせいかあまり気にならない。

　同種のネタで描かれたSF作品は数多くあり、この作品に新しさがあるのかといえばそれほど斬新な要素はないと言える。しかし、このようなSF作品を低予算で仕上げたことは映画を志す人たちに希望を与えたような気もする。それに、CGで描かれるSFを見慣れている現在のわたしたちに、ミニチュアを使った月面の映像はかえって斬新だ。十年ほど前の作品ということでそれほど古くはないのだけれど、かつての、古き良きSFの匂いがする。往年のSFファンには嬉しい作品であろう。

　余談だが、この作品の監督はデヴィッド・ボウイの息子だそうだ。しかし主人公の目覚ましはチェズニー・ホークスである。ここでデヴィッド・ボウイをかければ粋なのに、と思わんでもないけれど、でも息子としてはイヤだろうな…。