[映画]イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密

 今夜のU-NEXTは『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』。2014年の作品である。コンピュータサイエンスに大きな足跡を残したアラン・チューリングを描いた作品だ。

 第二次世界大戦時、ドイツ軍が作り出した暗号生成機エニグマ。それまでの暗号とはまったく違うエニグマによる暗号は、解読不可能に思われた。これを解読するために集められた精鋭。その中にアラン・チューリングがいた。

 この作品はそのアラン・チューリングが戦時中にどのような活躍をしたのかという、長年公にされていなかった情報に基づいた伝記映画で、作品の大部分はエニグマに挑む彼の姿を描いている。そして戦後の悲劇的末路については終盤でわずかに描かれただけだ。

 アラン・チューリングについて語るとき、外せないのはやはり彼が同性愛者だったことだ。第二次世界大戦で公にできないとは言え巨大な功績を残したはずのこの人物を、同性愛者であるという理由で拘束し、人権を無視した扱いをし、死に至らしめた。デジタルコンピュータや人工知能の分野の礎となる発想をいくつも残し、世紀の暗号機エニグマを破った天才なのに、彼はわずか41歳でこの世を去っている。これが世界的損失でなくていったいなんだというのか。

 チューリングは偏屈な天才として登場し、圧倒的能力を見せつけるけれど嫌な奴である。それがこの暗号解読チームの面々と接するうちに心を開き始め、天才をもってしても一人では解けない問題を解くことに成功する。彼にとってこのプロジェクトに参加したことはおそらく大きな転機であったろう。それだけに、その後の、戦後の活躍を期待せずにはいられなかった。この映画を見るとそのことが本当に悔しい。

 戦争が終わり、プロジェクトは秘密裏に闇に葬られ、彼の功績は秘匿されることになった。そんなことはいい。人として大いに前進したチューリングは、きっと残りの人生で、その後の世界を大きく変えるいくつものことを発見したであろう。エニグマを打倒したことなど、彼の功績の一つにすぎない。その一つが隠蔽されたところでどうということはなかった。生きてさえいれば。

 そういう時代だった。たしかにそうだ。でもそれから65年以上経過した今、どのぐらい進歩したろうか。たしかに今この時代であれば、同性愛者であるというだけでアラン・チューリングが受けたような人権を無視した扱いを受けることは無いだろう。しかし、まだまだ差別はある。人というのはこんなにも進歩しないものなのか。チューリングがその礎を提唱したデジタルコンピュータや人工知能は輝かしく進化している。それなのに、人はまだ同性愛を特別視している。

 2009年になってようやく、英国政府は彼の受けた扱いに対して正式に謝罪をした。それですら半世紀も経過しているうえに署名運動の結果としてのものであった。チューリングさん、世界は今、あなたの恩恵を受けまくって回っているのに、同性愛に対してはまだまだ遅れていますよ。

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涼雨 零音
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