「鉄路の行間」No.18/『ゲゲゲの鬼太郎』の幽霊電車の終点は、現存する京王多磨霊園駅
水木しげるの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』で、原作の漫画をはじめ、アニメ化されるたびに取り上げられる有名な話として「幽霊電車」がある。ストーリーは時代を経るにつれて少しずつ変わっているが、妖怪をバカにした相手を終電後に走ると言われていた幻の幽霊電車へと誘い込み、恐怖のどん底へ追いやるという流れは変わらない。
舞台となる路線は京王線とされ、その様子は作品の随所にうかがえる。出発点は京王新宿駅。線路が3本しかない駅だが、4番線から発車するシーンを入れるなど、細かい芸を見せている。
そして幽霊電車は、戦前から昭和40年代にかけて京王を走った、古いタイプの電車が現代によみがえった姿である。現存しているものは、京王れーるランドで静態保存されている2400系ぐらいしかないが、木製の床をした、緑一色の電車というイメージが作品に取り入れられている。これは今も走っているが、車内灯を消して夜中に通りかかる回送電車からヒントを得たのかもしれない。
なぜ、京王線になったかと言えば、水木しげる自身が多磨霊園駅近くに長年、住んでいたから。考えようによっては恐ろしげな駅名だが、1937年にこの名前に改称されて以来、今も変わらず存在している。多磨霊園そのものは駅から少し離れているため、墓参りの際にはバスやタクシーに乗り継ぐことが一般的のようだ。
そして、駅名もそのままに、この駅は幽霊電車の終点として登場する。途中停車駅が危篤だの臨終だの火葬場だのとされている割には、大胆というか何というか。アニメでは地元に気を使い?「奥多摩霊園」とか「村山霊園」などと架空の駅名に変えられていることもある。
京王としても、あまりいい気はしていないだろうが、最初は水木御大が昭和30年代の貸本時代に描いた作品であり、人気もあるため、苦笑しつつも見守っているというところか。多磨霊園という駅名を変える気は、なさそうである。
なお、現実の多磨霊園駅は、各駅停車だけが停まり、跨線橋上に改札口がある、どこにでもありそうな郊外の私鉄駅であることを申し添えておく。