「鉄路の行間」No.15/短く美しく咲いた、フランク永井が歌った西銀座駅
「ABC・XYZ…」という歌い出しが印象的な、フランク永井の『西銀座駅前』は、同名の映画の主題歌として作られた。作詞は佐伯孝夫、作曲はあの、国民栄誉賞の吉田正。しかし、歌の方はムード歌謡なのに対し、映画はコメディだった。フランク永井本人も、ところどころ狂言回しとして顔を出し、劇中で歌いもするが、どうも「浮いている」感じがしなくもない。なお監督は、まだ新人だった今村昌平である。
ところで現在、東京に西銀座という駅はない。1958年7月29日の映画公開の直前、1957年12月15日に開業したばかりの営団地下鉄の駅で、1964年8月29日に「銀座」に改称されて消滅した。現在の東京メトロ丸ノ内線銀座駅だ。今となっては考えづらいが、まだ真新しい地下鉄駅の構内でもロケが行われている。赤一色の、懐かしい電車も顔を出す。
丸ノ内線の駅の位置は、今も昔も変わりなく数寄屋橋交差点のところ。ただ、開業した当初は、銀座線の銀座駅とは直接、連絡通路でつながっていなかったので、別の駅名となっている。
なお、鉄道とは直接関係はないが、同じ佐伯孝夫、吉田正のコンビで作られたフランク永井の大ヒット曲『有楽町で逢いましょう』は、有楽町そごう(現在のビックカメラ有楽町店)が開店する際のキャンペーンソングだ。発売は西銀座駅開業と同じ1957年で、かつ国鉄有楽町駅と営団地下鉄西銀座駅は、お互いに目と鼻の先である。同じ場所で二匹目のドジョウを狙った感がなくもない。
当時、有楽町付近は戦後の混乱から脱して、三越や松屋があり銀座線が地下を走っている中央通り沿いから、繁華街が急速に広がった。西銀座駅周辺がショッピングエリアとして発展していった様子が、歌謡曲や映画からもうかがえる。
1964年、東京オリンピックに間に合わせるべく、日比谷線東銀座〜霞ヶ関間が開通。ちょうど丸ノ内線と銀座線を結ぶような位置に銀座駅が設けられたため、西銀座は銀座に統合された。わずか7年にも満たない期間だけ存在したことになる。
けれども、その短い間に歌詞と映画のタイトルに名を残した。さすがは銀座。今日の銀座駅は大きくリニューアルされて、令和風の「イカす」駅に変貌している。映画に出てくる駅とは名前も違えば、雰囲気もまったく変わってしまった。