WEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』第43話「台枠〇〇」ネーム(全)&3分で読めるレイルロオドのお話「電車姫と骨の記憶」
鉄道車両にほとんど興味が無い方から「台枠ってなに?」と聞かれたとき。
わたくしは、ほとんどなにも考えずに「人間の体でいえば腰みたいなもの」と答えていました。
それは多分、誰かから聞いたorなにかの本で読んだ内容を、そのまま口にしていた――という程度の返答でした。
足回り(走り装置)と上半身(車体)とをつなぎ、支えるもの――
そのイメージが「台枠≒腰」の例えの、要点となっているのかと存じます。
しかしながら。
四つん這いになり赤ちゃんを背中に乗せて動いているとき、わたくし、気づきましたのです。
「台枠は腰ではなく、むしろ『骨(背骨)』だな」と。
四つん這いになって移動している人間に置き換えるなら、走り装置は手と足とです。
そして、車体――台枠の上部構造物は、筋肉に置き換えられましょう。
艤装が皮です。
そう考えれば、走り装置と上部構造物及び艤装との支えとなり、車両≒人体全てを保っているのものがすなわち、台枠≒骨、となります。
台枠損傷ということが、どれほどに深刻な事態であるのか――は
「台枠=骨」の例えをとったほうが、より具体的にイメージしやすいのではないかな、と思います。
台枠損傷は脊髄損傷。
動くなどとてもできないし、放置しておけば致命傷にさえなりかねないものなのだ、と。
そんな台枠が、いまがっつり展開と絡んでおります、
WEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』
第43話「台枠◯◯」のネーム&字コンテ。
今回更新で4シーン全てのものがそろいますので、一挙に公開いたします。
8620の台枠損傷からはじまるエピソードでございますね。
ネームそのものはメンバーシップ特典コンテンツとなりますのですが、
それに先立つアバンタイトル部はどなたにも無償でお読みいただけますので、よろしければぜひご覧いただけますと幸いです。
そんな感じでございますので、本日の短いお話は「骨」をテーマに書いてみたいと思います。
登場するレイルロオドは、紅葉(電車姫)と、ひよこ(不死鳥博士)。
タイトルは「電車姫と骨の記憶」。
どなたにも無償でお読みいただけるお話となりますので、よろしければぜひご笑覧ください。
なお、紅葉(電車姫)については、次回更新で
『レイルロオド・マニアックス 紅葉(電車姫)』をやって、
その詳しいとこを書く予定です。
どうぞ、合わせご期待いただけましたら。
■紅葉
廣島毛利電鉄100形101号電車専用レイルロオド。
廣島電鉄開業時のオリジナル車輌、100形電車のトップナンバーレイルロオド。大詔元年製造。
廣電の創業機の一機として、さまざまな形で廣電を――今日に至るまで支え続けている。
■ひよこ(不死鳥博士)
御一夜鉄道8620専用レイルロオド。
なんだかんだで稼働100年を超えているので、あちこちの不調も少なくない。
ので、折をみては不死鳥博士にセルフ・メンテナンスの細かなノウハウを教わっている。
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『電車姫と骨の記憶』
「……う、む」
「いかがですかな?」
曲げて、伸ばす。
肩からひねる。
手首を振って、ひねる。曲げ伸ばす。
「――素晴らしいの」
違和感も痛みもまるでない。
「さすがはひよこ――いやさ、不死鳥博士よの」
「お褒めにあずかり光栄ですな」
クイ、と眼鏡が持ち上げられる。
ご機嫌なときのひよこのクセじゃ。
「しかし……前腕橈骨の疲労骨折とは、災難でしたな」
「うむ……最初は捻挫かなにかかと思うたのじゃが、あまりに痛みが長引くでの――」
動かずおれば痛みが引くのも、逆に長引かせてしまう一因となっておったか。
「相談をしてよかった。ひよこに検査を勧められねば、もっと長引かせてしまっていたであろうゆえ、の」
「こちらとしても幸いでした。レイルロオドの疲労骨折は――
しかも橈骨のものとなると、極めてのつく稀な症例ですからな。
よいノウハウを取得できました」
「左様なれば何よりじゃ」
レイルロオドは消耗品。
疲労骨折をするまでに長年使われてしまうなぞ、大廃線前には確かに稀なことであったが……
「これからは稀な症状ともいえなくなってくるのであろうな」
「で、ありましょうな。ですので、もしもそうして大丈夫なら、紅葉にはもう一度の手術を受けていただきたいのですが――」
「ふむ?」
「今回行った手術は、単純な交換移植なのですよ。紅葉の妹――100形103号電車専用レイルロオドの、保存部品の」
「103……ああ、わらわの腕には 石楠花の骨がはいっておるのか」
明るく、なれど幸薄い妹であった。
廣島に新型爆弾が落とされたあの日――
103号は全焼し、石楠花も全身にひどい火傷を負わされ……
走行不能となった103号よりも先に、解体決定されてしまった。
「……残っておったのじゃな、骨が」
「100形姉妹のの廃部品は驚くほど状態よく数多く保管されておりますな。ま、廣電さんのご事情でしょうが……そうであれ、素晴らしいことです」
「くふふっ――なるほど、”ご事情”、の」
苦笑しか出ぬ。
さあることを望んでおるわけでは決してないが……
この身はなかなか、まだまだどうして、退役を迎えられそうにないと聞かされて。
「とは申せ、まこと嬉しいことじゃ。とうの昔に別れを告げた妹と、ふたたびともに働くことができるのじゃからの」
「……そう聞かされてしまうと、さきほどの提案を撤回したくもなってきますな」
「さきほどの? ――ああ! 『もう一度の手術』うんぬん申しておった」
「ですな」
す、とひよこの手が伸びる。
わらわの右腕――手術したばかりの上腕を、そうっと撫でる。
「いま紅葉にいれた骨――シャクナゲ氏由来の人工骨は、PMMA――ポリメタクリル酸メチルを重合して作られたものを素材としています」
「ポリ……なんじゃ?」
「ふぅむ――レイルロオドにはほぼほぼ無縁なものではありますが、虫歯、人間の。あれの穴を埋める骨セメントに使われているものが、PMMAです」
「ほう。人間の口内で使われるものであらば、さぞ安全性が高いのであろうの」
「生体適合性の話であれば、非常に高い材料ですな。
が、PMMA製の人工骨は、破壊靭性が低いのですよ。折れやすい。
人間の骨の破壊靭性が骨の破壊靱性は3.5MPa・m1/2~6.6MPa・m1/2であるのに対し、PMMA人工骨の破壊靭性は0.7~1.6にすぎません」
「ふむ。3.5と0.7なら1/5の強度しかないということか?」
「まぁ、そのイメージでの解釈で問題ないかと。
ともかく、そのような、しかも非常に長い年月が経過している人工骨がいま紅葉を支えていますので――」
「いつ再び折れてもおかしくはない、ということか」
「ご明察。ので、移植時にオリジナルの紅葉の、疲労骨折してしまった橈骨と、今回移植したシャクナゲ氏の橈骨を、ともに3Dスキャンしております」
「ほう?」
「オリジナルの図面ももちろん残っておりますので――それらを解析し、もみじによりフィットする人工骨を、最新素材――リン酸カルシウム人工骨にて作成することが可能なのですよ。
もうしばらくの時間と予算とををいただけるのなら……ですが」
「予算も時間も――っ!」
うずいた――気がする。
わらわの前腕……石楠花が残してくれた、橈骨が。
「……ふふ、そう強く勧めずとも大丈夫じゃ」
明るかった石楠花。
せっかちだった石楠花。
笑うと零れる八重歯が愛らしかった石楠花。
自分のブーツと姉妹の誰かのブーツとを、驚くほどの頻度では気間違えていた石楠花。
姉妹のために、いつでも全力を振り絞っておった――健気な石楠花。
……あの日も。乗務変更がなかったら。
石楠花が代走に立候補せずにおったなら……運命は、大きく変わっていたであろうに。
「こうも小さく変わり果てても石楠花は、この上なく姉妹思いなのじゃな」
「? なにか言いましたかな?」
「いいや」
この腕に石楠花の骨を入れ続けるとして――そこに感傷以外の理由は持てぬ。
が、3Dスキャンとやらの情報を元に、最新素材での骨を制作してもらうのであらば……そのデータは今度全てのレイルロオドの人工骨交換においての、大きな資産となっていくであろう。
ゆえ――
「なにも迷うことはない。進めてくれ。新しい骨が楽しみじゃ」
「ふむ。ではそのように承りましょう。
いままで以上の激務に耐える骨となることをお約束しますぞ」
「かかる約束は不要じゃ――が、ああ、うむ」
「なにか?」
「再移植後の石楠花の骨じゃが、捨てずにわらわに渡して欲しい。
……研究のため必要などあれば、むろん、そちらを優先してもろうて構わぬが」
「研究には使いませ……ああ、いえ。外した後に、移植前との比較検査を行いますので、その後は完全に不要となります。ですので、綺麗に洗ってお渡ししましょう」
「なれば助かる」
であらば、感傷も満たしてやろう。
2代目100形――オリジナルの100形のレプリカ車両を走らせるとき、わらわもきっと添乗し、石楠花に見せてやろう。
あの惨状から見事に立ち直り、鮮やかな発展を遂げた廣島を――
わらわたちの街、わらわたちの鉄路を。
;おしまい
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いかがでしょうか?
ちなみに電車姫の妹は電車姫を除いて49体おりまして、それがすべて廣電創業時に一気に製造されております。
廣島毛利電鉄、恐るべしでございますね。
そんなこんななWEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』。の過去話。
どなたにも無償でご確認いただける0~7話はこちらで
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それぞれお読みいただけますので、よろしければどうぞご笑覧いただけますと幸いです。
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