見出し画像

アイデンティティ理論から読むDOLLCHESTRA「Proof」――自分の存在証明、あるいは自己連続性

こんにちは。かみなりひめです。

さて、遅ればせながらあらためて。

DOLLCHESTRA 4th single
「Proof」
発売おめでとうございます!

‥‥発売から1週間経って言うモノでもないですね。

「書きたいことはあるんだから書かなきゃ――」
と思いつつも、地元愛まつり2024を迎えてしまい、
いよよこの日まで溜め置いてしまいました。

前奏のピアノに導かれるように駆けだした楽曲が
爽やかに、しかし力強く私に見せてくれたモノは、
アイデンティティに関わる大事な二つの要素。

それこそ、

「自分の存在証明」と「自己連続性」

なのでした。


1. 僕だけが持っている何か

以下、ここからは歌詞に表れていることばを
読み取りながら、外の世界の理論を踏まえながら
歌詞世界を紐解いていきます。

さて、この「Proof」という曲ですが、
Aメロ冒頭は1番・2番ともに共通する
この歌詞から開かれていきます。

僕だけが持っている何か
見つけたいんだ それだけなんだ

(DOLLCHASTRA「Proof」)

「僕だけが持っている何か」については、
「探せば探すほど見えな」いものであり、また
「探せば探すほど苦し」いものであることが
この後に述べられていきます。

ここでいちど、「アイデンティティ」の
定義をあらためて確認しておきたいと思います。

自分が他ならぬ自分として、生き生きとした生命的存在として生き続けているという実存的な意識であり、同時に、自分が所属する社会の人々とある本質的性格において共通しており、世界との一体性をもつという実感である。

(エリクソン「Childhood and Society」)

自分が他ならぬ自分として」生きているという
意識を「アイデンティティ」と呼ぶのならば、
ここの「僕だけが持っている何か」というものは
まさに「アイデンティティ」を確立させるための
ひとつの要素になりえそうです。

そして、「僕だけが」と確実に言うためには、
その過程でどうしても他者と比較することが
求められてしまいます。

しかし、人生のライフステージはさまざまで、
その時々によって傍にいる他者も変化します。

ということは、
「僕だけが持っている何か」というのは、
自分がいま・ここの段階で見えてくるモノ
では決してないはずです。

極端なことを言ってしまえば、
人生が終わるその瞬間まで発見できない
ということもあるかもしれません。

だからこそ、その発見に際しては
「見えなくて」「苦しくて」もがく
ということになってしまうわけなのです。

2番では、先ほどの歌詞のあとに
このような言葉が続いていました。

僕だけが持っている何か
見つけたいんだ それだけなんだ
でも本当に見つかるのかな

(DOLLCHASTRA「Proof」)

ここまでの話を踏まえれば、
これが至極まっとうな疑問であることが
見えてくるのではないでしょうか。

「僕だけが持っている何か」を見つけることに
苦しんだ後は、どうしても「後悔」が襲います。

すり減った後悔が波間に溶けてく(Don't look back)
特別じゃなくたって良いこと
本当は分かってた

(DOLLCHASTRA「Proof」)

このまま、「僕だけが持っている何か」は
見つけられずに終わってしまうのでしょうか。

2. 自分の弱さまで愛せそうだ

先ほど挙げたBメロの歌詞ですが、
2番だと少し様子が異なっております。

間違った選択を嘆かないようにした(For my heart)
光が射してる気がする
覚悟は決めたから

(DOLLCHASTRA「Proof」)

いささか前向きに進んで行こうという
「覚悟」が見えてきたような気がします。

ですが、ここで一番大事なのは
「間違った選択を嘆かないようにした」という
ことに尽きるでしょう。

アイデンティティの確立に大事なポイントとして、
「自己連続性」というものが挙げられます。

同一性の感覚において、まず重要であると考えられるのは、自分自身の斉一性・連続性である。すなわち、自分が自分であるという一貫性を持っており、時間的連続性を持っているという感覚が、同一性の感覚においては重要であるといえよう。

(谷冬彦「青年期における同一性の感覚の構造」)

おおまかに述べてしまえば、
過去の自分と今の自分が繋がっている」という
感覚のことです。

過去の成功も失敗も、そこに至るまでの努力も、
それらすべてがいま・ここの自分に繋がるモノだ
という感覚を持つことが大事なのです。

この「間違った選択を嘆かない」というのも、
まさに過去の失敗によって生じた影響を受け止め、
進んで行こうとする姿であるでしょう。

そして、今の「自分」は、
未来の時点では過去の「自分」になります。

未完成なものばかりだって
悩むのが辛くなっても
いつか最高地点の先へ行けるなら
自分の弱さまで愛せそうだ

(DOLLCHASTRA「Proof」)

自分がここまで築き上げてきた「弱さ」をも
受け止め、「愛せそうだ」と宣言するとき、
自分の存在というものの「証」(=Proof)が
見えてくるのです。

3. それが証になるって思うんだ

「僕だけが持っている何か」を掴むのは、
「他でもない 僕のため」だと思えたその時、
走るべき道が見えてきます。

不恰好で また悔しくなって
見せるのが怖くなっても
今の最高地点の先が未来なら
理想はこの場所に置いて行こうか
形を持ち始めた夢が
実を結ぶために
あと少しで あと少しで
届くと そう 信じたいんだよ
それが証になるって思うんだ

(DOLLCHASTRA「Proof」)

1番サビで聴いた時よりも、
いっそうの確信と力強さを帯びた言葉として
受け止められているのではないでしょうか。

ここでひとつ気にかかるのは、
「それが証になるって思うんだ」の「それ」は
果たして何を指しているのか?という点です。

直前の歌詞を見ると、
「あと少しで あと少しで
 届くと そう 信じたいんだよ」
となっています。

ここも、「届く」のは何?(どこに?)
という点がすっぽり抜け落ちています。

どんどん遡っていくと、この直前には
「形を持ち始めた夢が 実を結ぶ」とあるので、
これが達成されることを「届く」と表現した
ということが分かります。

この「夢」とは、冒頭から述べ続けている
「僕だけが持っている何か」を探すことだと
いうのは問題ないでしょう。

曲のクライマックスにあって、
それが「形を持ち始めた」と形容されるのは、
まさに楽曲がここまで歩んできたからです。

ということは、「それ」が指し示すのは、
「僕だけが持っている何か」を探し当てようと
ここまで必死にもがいてきた努力そのもの
である
ということができるでしょう。

アイデンティティ確立に必要な「自己連続性」
という条件を理解できたいま、自分の努力こそが
自己存在の「証」(=Proof)になるというところで、
タイトルの意味を回収して、幕を閉じるのでした。

4. おわりに

音楽情報サイト「OTOTOY」では、
この「Proof」を以下のように紹介しています。

DOLLCHESTRAは、メディアミックス作品群『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』に登場するユニットの1つ。本作品は新メンバーが入り、新体制となったDOLLCHESTRA、初のシングル。「Proof」は1年生の徒町小鈴に焦点を置いた青春ロックソング。

(OTOTOYの紹介ページより)

お恥ずかしながら、
ここまでの蓮ノ空的な文脈を追いきっておらず、
上記ページではっきりと指摘されるまでは、
かちまちと結びつける発想がなかったです。

たしかに、徒町小鈴というキャラは、
以下のように紹介されていました。

蓮ノ空女学院の1年生。敦賀の漁師家系の末っ子。「自分に誇れるなにか」を見つけるために、色々なことに挑戦しているチャレンジガール。失敗してもへこたれない頑張り屋さんだが、たまに自分を下に見る発言も。気合入れの合言葉は「ちぇすとー!」

(メンバー紹介ページより)

これから走っていく徒町へ。
綴理先輩、さやかちゃんと積み重ねていく
その「努力」が、徒町を照らす光となって
あなた自身の存在を証明してくれるよ。

徒町と、DOLLCHESTRAの未来に幸あれ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?