この問題ができないとヤバい!
いくら勉強してもなかなか得点が伸びない。
それは基礎学力「リーディングスキル」が足りないからかもしれません・・・
まずは簡単な○×問題に答えてみてください。
左は中学校理科の教科書からもってきた文章です。
右の○×問題は、左の文章を読めば答えがわかるようにできています。
これは「リーディングスキル」を測るために筆者が作成したドリルです。
教科の知識の有無に関係なく、書かれている文章の内容を正確に読み取れていれば正解できるようになっています。
①~⑤の答えをどこかにメモでもしてもらって、何問正解できるかやってみてください。
それでは答え合わせをしていきましょう。
①の正解は ✖
「平行四辺形の対角線はすべて」とありますが、力Fになるのは図に描かれた対角線の1本のみで、もう1本の対角線は力Fにはなりません。
②の正解は 〇
左の解説文に
「力Oは力Fとつり合っている」
「同じ大きさで向きが逆向きである」
とあるので〇です。
③の正解は ✖
力Oがつり合っている力Fは、力Aと力Bの合力であるので、力B単体ではつり合いません。
④の正解は ✖
「1つの力を複数の方向に分けることを力の分解という」
「分力」は「力の分解」で分かれた個々の力を指しています。
角度をもった2方向の力に分けることは「力の分解」です。
最後までちゃんと読まない人は「分力」だと思い込んでしまいがちです。
「分けることを」という言葉にも着目しましょう。
⑤の正解は 〇
②の解説にあったように、同じ大きさで逆向きの力はつり合います。
④の解説にあったように、力Oは角度をもった2方向の力M・力Nに分解することができます。
この2つを複合すると⑤は〇となります。
どうです?
全問正解できましたか?
「すべて」とか「分けることを」とか、ちょっとした言い回しで指し示す内容が変わるところとか、運転免許の試験や、行政書士などの資格試験でもよく見かけますよね。
そしてよく引っ掛かります。
嫌がらせかよっ!
って腹立たしい出題の仕方ですが、逆にそこに引っかからない「リーディングスキル」を身につけることの重要さもわかっていただけると思います。
学力低下の原因はリーディングスキル
このドリルは、筆者がある中学校で研究主任をしていた際に、職員研修として先生方に出題したものです。
年々落ちていく子どもたちの学力。
その原因がどこにあるのか?
原因がわからなければ有効な対策はたてられないため、研究主任として生徒を観察しながら、原因を探る日々を続けていました。
そんな時に出会ったのが、新井紀子さんの著書「AIvs教科書が読めない子どもたち」という本でした。
この本で紹介されている
「日本の中高生の多くは、中学校の教科書の文章を正確に理解できない」
という驚愕の実態に、筆者も衝撃を受けました。
そしてストンと腑に落ちました。
筆者が探し続けていた学力低下の原因は、
「リーディングスキル」にあったのです。
教科書に書いてある内容が理解できなければ、用語を覚えていたとしてもそれに関連する問題に正確に答えることはできません。
この力「リーディングスキル」をつけない限り、いくら勉強しても学力は伸びません。
それどころか、あやふやな知識や用語ばかりがインプットされて、さらなる混乱を招くことになります。
たとえるなら、パズルのピースばかりが増えて、組み上げる難易度だけが上がるようなものです。
500ピースのパズルなら、割と簡単に組み上げることができます。
教科の知識が少なくても、正確に理解しているのであれば、関係する問題には正解できます。
しかし、2000ピースともなれば、組み上げるのに相当時間がかかってしまいます。
正確に理解できていないということは、行き場のわからないピースをただただ増やすことであり、そんな勉強をいくら積み重ねたところで、テストの得点は上がりません。
まじめに毎日勉強を頑張っているのに、やればやるほどテストの得点が下がってしまう。
そんな生徒が必ずいます。
そういう子は、一つ一つの学習内容の理解があやふやなために、ただただピースだけを増やして正解にたどり着きにくくしてしまっているのです。
努力が無駄になってしまう上に、自信も失って無力感に襲われてしまう。
がんばっている子がこの負のスパイラルに陥るのは、見ていて何よりも辛いです。
がんばった分、きちんと成果が出て、自信につながるように、なんとか生徒に「リーディングスキル」をつけてあげたい。
そう強く思いました。
理科の先生でも間違える
この現状と問題を先生方と共有すべく、研修会で紹介しました。
冒頭のドリルをまず先生方にもやってもらったのですが、驚きの結果が!
先生でも全問正解できたのは全体の1/4のみ。
3人いた理科の先生は全員、全問正解できなかった。
理科の先生3人とも、④の問題を間違えていた。
「リーディングスキル」のドリルは、教科の知識は関係なく正解できるように作られています。
答えは文章中に示されていますから、正確に読み取れれば正解できるはずです。
にもかかわらず、先生たちでさえこの結果。
事態は予想以上に深刻でした。
正確な知識を教える立場の先生自身が、あやふやな読み取りで教えている。
これでは生徒に「リーディングスキル」がつくわけがありません。
正確に読み取る力をつけるために、先生方には以下の点をお願いしました。
①教科の学習ででてきた用語について、その表す意味や概念を、なるべく具体的に生徒に示し、振り返りの場面で理解度を確かめる取り組みを入れて欲しい。
→用語を正確に理解するための指導・支援
②先生が説明するだけでなく、生徒に復唱させたり、あらためて説明させたりする場を設けて欲しい。
→取り組んでいる内容を正しく理解できているか確かめる指導・支援
③言い方を変えたり、関係性を入れ替えたりして演習問題を行ってほしい。
→「リーディングスキル」をつけるための指導・支援
学習した内容を正確に理解し、着実に学力を伸ばしていくための基礎学力である「リーディングスキル」は、活字離れが激しい現代の子どもたちにとって、もはや自然に身につくものではなく、大人が意図して訓練しなければ身につかないスキルとなってしまっています。
筆者の方針に従って、どれだけの先生が実践してくれたか、詳しいところはわかりませんが、翌年の全国学調の結果は全県平均・全国平均ともに少し余裕をもって上回ることができました。
お子さんにリーディングスキルをつけるには
これを読んだ先生や保護者の方は、ぜひ頭の片隅に置いて、お子さんたちの指導や支援を行っていただければと思います。
保護者の方だったら具体的に次のような方法をお試しください。
「今日は学校でなにを習ってきたの?」
「今日は算数で分数をやったよ」
「分数ってどういうものか、お母さんに教えてくれる?」
「分数って1/3とか、数字の上に線引いて、その上に数字があるの」
「下の数字は何を表しているの?」
「下の数字は1つの物をその数で分けているってことで、上の数字はその分けたうちのいくつあるかなの」
こんな感じで、学習した内容をお子さんが自分で説明できるかどうか、少しずつ具体的な内容を指定して聞いてみてください。
上の例のように説明できれば、お子さんはその学習内容を正確に理解できていますので、ほめてあげましょう。
あやふやなことを言っていたり、うまく説明できなかったりする場合は、学習内容を正確に理解できていません。
保護者の方で補強解説ができるようならしていただければいいし、難しいようなら、「そこのところよくわかっていないようだから、明日学校で先生や友達にもう一度聞いてごらん。そして、またお母さんに教えてね」と、学校での復習を促してください。
参考までに新井紀子さんの著書を紹介しておきます。
より詳しい現状分析と課題について興味のある方はご一読ください。
子どもに「リーディングスキル」をつけるために有効な教材も販売されています。
正進社の「読み方レスキュー」というドリルです。
これは読解スキルを具体的な7つに分類し、段階的に読み取り方を身につけられるように開発されたドリルになっています。
サンプルが見られるので、下記リンクからご覧ください。
残念ながらこちらのドリルは学校教材用でして、市販されていません。
したがって家庭や個人では購入することができません。
このドリルを使うためには、学校の先生から正進社の販売代理店(地域の教材販売店)に発注してもらうしかありません。
このドリルの価値がわかる先生ならば、担任する学級で朝読書の時間などに扱って、「リーディングスキル」をつけてくださると思います。
ですが問題もあって、筆者もこのドリルを中学校の国語の授業で扱っていたのですが、数十人分を一斉にチェックし、傾向を分析し、個別に必要なアドバイスをするのは無理でした。
このドリルの性質上、マンツーマンに近い形で、どこでつまづいたのか、どう読めばよかったのか、個別に確認しながらやることで最大限の効果が見込めます。
そうやって基礎学力である「リーディングスキル」をきちんと身につけたお子さんは、教科書の内容を授業で扱うだけで正確に理解し、特別に塾などに通わなくても、高得点をとれるようになります。
ですので、できればご家庭で1日10分、保護者の方が一緒にドリルを1枚やって解説を確認していただくのがベストです。
ベストですが、家庭で購入できないという問題が・・・
価格は360円ですので、学級PTAなどで話題にしていただき、保護者の方の了承を得て学校で購入してもらったものを、そのまま家庭に持ち帰らさせてもらうのがいいかと思います。
一度担任の先生にご相談ください。
子どもたちが確かな学力を身につけられること
子どもたちの積み重ねた努力が無駄にならないことを
切に願ってこの記事を書きました。
多くの方の目に触れることを願います。