女性のライフステージにおける変化(小児期、思春期)
女性は男性よりも、ライフステージにおける身体的・精神的変化がはるかに大きいとされる。女性のライフステージは、主に小児期~思春期~成熟期~更年期~老年期に分けられるが、各ステージごとの変化に大きく関与するのが、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンだ。
特に変動が激しいのはエストロゲンの分泌で、思春期急激に分泌量が増え、成熟期で一度安定するものの、閉経後急激にエストロゲン量は減少。この生涯を通じて起こる変化が、心身に大きく影響している。
(1)小児期
7~9歳頃にかけて、レプチンの分泌量が増えて性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が促進される。すると脳下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)、そして卵巣からエストロゲンの分泌が促される。エストロゲン量が増えると、GnRHの分泌抑制が低下し、脳下垂体からFSHや黄体形成ホルモン(LH)が増え、さらにエストロゲン量も増加し、徐々に思春期へと向かうとされる。
ちなみに、レプチンは脂肪細胞から分泌されている。幼少期にふくよかな女児の方が生成塾が早いという言説があるが、その一端に脂肪細胞からのレプチン分泌が、より多く促されていると考えられる。
1)思春期早発症
通常、女子は10歳前後から性差がより明確になってくるが、それよりも2~3年早く性成長が始まってしまうのが「思春期早発症」である。身体的特徴として、一時的に身長は伸びるが、早期に体が完成するため小柄になりやすい。周囲よりも早く第二次性徴の発達が見られることで、社会的・心理的にも悩んでしまうことが多い。男子にも起こりうる。
女子の主な症状としては、次のようなものが挙げられる。
・7歳6か月までの間で乳房がふくらみ始める
・8歳までに陰毛・わき毛が生える
・10歳6か月までに生理が始まる
(2)思春期
公益財団法人 日本産婦人科医会では、思春期を次のように定義している。
思春期とは「女性においては第 2 次性徴出現から初経を経て月経周期がほぼ順調になるまでの期間をいう.年齢的には 8~9 歳頃から 17~18 歳頃までの間で,乳房発育に始まり,陰毛発生,身長増加,初経発来で完成する.」と定義されている(『産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第 4 版』日本産科婦人科学会編).
引用元:思春期とは(公益財団法人 日本産婦人科医会)
1)身体的変化
思春期が始まる機序については、不明な点も多い。ひとつの要因として、小児期では分泌が阻害されていたGnRHが、青年期初期に分泌量が増え思春期を誘発するというものがある。
GnRH分泌は、通常エストロゲン、プロゲステロンによる抑制を受ける。しかし思春期初期は、その機構の感受性が低いとされ、次第にGnRHの分泌量は増加。脳下垂体からLH、FSHの分泌も促進される。一連のメカニズムで分泌量が増えたエストロゲンにより、第二次性徴の発達を刺激することとなる。
同期管内での陰毛および腋毛の成長は、副腎性アンドロゲン(副腎皮質から分泌される男性ホルモン)だるDHEA、DHEA-Sの刺激によってもたらされると考えられている。副腎皮質が副腎性アンドロゲンを分泌しはじめる過程を、「アドレナーキ」と呼ぶ。
2)骨量の増加率が最も高い
女性は性成熟期にあたる20歳頃に、最大骨量を得る。しかし、1年あたりの骨量の増加率が最も高い(もっとも骨が育つ)のは、11~15歳の間とされる。この時期で食事・運動などの健康面に気を使い、骨量を増やすかがその後の骨粗鬆症リスクに大きく関わると言っても過言ではない。この時期に無月経など月経異常が見られると、エストロゲンの低下→骨量低下といったリスクが高まる。
特に、女性は思春期で全身と腰椎の35%、大腿骨頸の27%を獲得すると言われている。若い女性がクライアントである、もしくは該当の年齢の家族がいるクライアントには、この時期に最大骨密度を高めるよう指導・アドバイスすることは非常に重要である。
3)よく見られる婦人科疾患
思春期の女性には、次のような婦人科系疾患が見られやすい。
・月経不順
正常月経といわれる、25~38日(変動6日以内)の月経周期に当てはまらず、25日未満に月経と見られる出血が見られたり、次の月経までの間隔が39日以上空くといった症状が起こる。疲労、ストレスといったホルモンバランスの乱れが原因とされ、機能性子宮出血、黄体機能不全、多嚢胞卵巣症候群(後述)といった病気を引き起こしやすい。
・無月経
妊娠していないにも関わらず、3ヶ月以上月経が来ない状態のこと。18歳以上になっても月経が始まらない「原発性無月経」、急激なダイエットや肥満、強いストレス、ホルモンバランスの乱れによる「続発性無月経」の2種類に分けられる。
・思春期遅発症
男子は14歳前後、女子は13歳前後をめどに、二次性徴が見られない病気。女子の場合、半数近くは卵巣の機能異常で、女性ホルモンが正常に分泌されないことが原因とされる。※ターナー症候群のほか、過度な食事制限・運動といった無茶なダイエットが引き金になることもある。
※ターナー症候群
2本のX染色体のうち、1本の一部あるいは全体の欠失でおこる病気。身長が低く、首の後ろに皮膚のたるみがあり、学習障害や思春期が見られないなどの症状が見られる。
・排卵障害
月経周期において、排卵までの過程になんらかの異常が起き、卵が育たない・うまく排卵できない状態を指す。そのうちの1つが「多嚢胞卵巣症候群(PCOS)」で、思春期~性成熟期に見られる。卵胞の発育に時間がかかり、なかなか排卵しない=月経周期が長くなる。20~30人に1人の割合で、この症状が見られるという。
・月経困難症
器質性月経困難症、機能性月経困難症の2種類に分けられる。
①器質性月経困難症
子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などが原因で発症する。
②機能性月経困難症
器質性月経困難症のように、原因となる病気がないことが特徴。原因としては、プロスタグランジンの分泌過剰による子宮の過剰収縮、頸管が狭いことなどが挙げられる。月経困難症を訴える女性の大半が機能性月経困難症に当てはまり、特に初経後2~3年間で起こりやすい。
・卵巣嚢腫
卵巣に形成される腫瘍の一種で、卵巣が内容物の入った袋のような形をしている。20~30代に多い。※チョコレート嚢胞がこれに当てはまる。
※チョコレート嚢胞
子宮内膜症等の影響で、卵巣に血液が溜まり嚢胞を形成する。卵巣内に滞留する古い血液がチョコレート色のため、チョコレート嚢胞と呼ばれる。これを放置すると、卵巣破裂や卵巣がんといった、重病化リスクが高い。
・性感染症
・摂食障害
参考
・成長のしくみと最近の成長ホルモン治療の進歩(水野 晴夫, 第撰回日本小児保健協会学術集会教育セミナー, 第74巻 第1号2015(55~58))
・思春期早発症(一般社団法人 日本小児内分泌学会)
・思春期女子における月経の実態と月経教育に関する調査研究(蛯名 智子, 松浦 和代, 母性衛生 = Maternal health 51(1), 111-118, 2010-04-01)
・女性の生殖内分泌学(MSDマニュアル プロフェッショナル版)
・性成熟期女性の妊娠・出産における近年の動向(片桐 由起子, 週刊日本医事新報 4708号, 2014)
・骨粗鬆症の予防は成長期からー骨が育つ思春期までを大切に過ごすー(公益財団法人 骨粗鬆症財団)
・Doctors File