女性のライフステージに伴う変化(性成熟期)
性成熟期(成熟期とも言う)は、18~40代前半(20~40代後半とする資料も多い)にあたる。生涯で女性ホルモン(特にエストロゲン)の分泌量が非常に盛んな時期となる。生物学的観点では、もっとも妊娠・出産に適した時期だが、エストロゲン分泌量の変化に伴う身体的変化、年齢による社会的変化が目まぐるしく起こる時期でもある。
(1)身体的変化
思春期で急激に増加したエストロゲンの分泌量は、性成熟期でピークを迎える。ほかのライフステージと比べ、月経周期が安定的にサイクルとして回り、それぞれの時期に応じて心身の変化が見られる(基礎体温、精神状態の変化など)。
30代頃から卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌量が減少しやすくなる。それにより、乳がんや子宮がん、子宮筋腫、肥満、糖尿病などにかかりやすくなる。
1)妊娠中の主な変化
性成熟期において、もっとも女性の身体的変化を感じられるのは妊娠・出産と言えるだろう。妊娠中、女性の身体は軽く取り上げるだけでもこれだけの変化が起きている(詳細は妊娠に関するnoteで解説)。
1.心拍出量が30~50%増加する
2.全血液量が心拍出量に比例して増加
3.血中ヘモグロビンの希釈(血漿量の増加量が約50%と、赤血球量の約25%よりも多いため)
4.血中の白血球数の微増
5.必要な鉄量の増加(妊娠後半期では6~7mg/日必要とされる)
6.腎機能の強化(糸球体の濾過量が30~50%上昇)
7.呼吸数が増え、体内のCO2値が低下しやすい(プロゲステロンの増加の影響)
8.便秘が生じやすくなる(子宮が直腸、結腸下部を圧迫することが関連)
9.胸やけの増加
10.前額部、頬骨隆起上に肝斑(褐色の色素沈着)、乳輪・腋窩・性器に黒ずみ、腹部中央下方に黒線が見られる。
これ以外にも、抱っこや授乳といった育児の過程で、腰痛に悩まされる女性が非常に多い。
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2)社会的背景による性成熟期のライフスタイルの変化
女性の社会進出・晩婚化・晩産化により、妊娠・出産の回数が低下している。その結果、昔の女性が生涯経験する月経は約50回だったのに対して、現代女性の経験する月経回数は約450回と、約9倍も増えているとする文献もある。無茶なダイエットやハードワークなどで、体調を崩す人も多いので注意が必要である。
(3)疾患
性成熟期で気を付けたい婦人科疾患として、月経困難症や月経前症候群(PMS)、性感染症などのほか、次のものが挙げられる。
①排卵障害
卵が育たない、うまく排卵されない症状を指す。排卵障害がある場合、基礎体温が2相(低温期・高温期)にならなかい、生理不順が続くなどの傾向が見られる。
②不妊症
不妊症とは、次の状態を指す。
「生殖年令の男女が妊娠を希望し、ある期間避妊事すること無く性交渉をおこなっているのにもかかわらず、妊娠の成立を見ない場合を不妊といい、妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合」(公益社団法人 日本産科婦人科学会より引用)
アメリカ生殖医学会(ASRM)や多くの団体で、「ある期間」を1年としている。女性、男性、両方に原因が見られるため、双方の検査が必要。原因が見つからない場合もある。
①良性疾患
子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、卵巣嚢腫などのこと。子宮内膜や類似する組織が、「子宮の内側以外」で発生・発育する病気。月経が起こるたびに、組織が増殖・悪化していくという特徴を持つ。
20~30代の女性に発症しやすく、器質性月経困難症の原因を調査したデータでは、20~30代の半数以上が、子宮内膜症が原因だと診断されている(40代以上では、子宮筋腫の割合が増加)。
②悪性疾患
・子宮頸がん
行すると月経中以外での出血、茶色、膿のようなおりものの増加などが見られる。さらに進行すると、下腹部、腰の痛み、血便などが確認される。
・子宮体がん
子宮体部で発生したがんのこと。子宮内膜がん、子宮肉腫などを含む。自覚症状でもっとも多いのは不正出血で、進行すると排尿時や性交時の痛み、下腹部・腰の痛みが見られる。罹患する年齢は比較的高く、閉経後、更年期での注意も必要。
・卵巣がん
特徴的な初期症状はほぼないとされる。比較的見られるのは、下腹部の痛み、不正出血、便秘、頻尿、食欲不振など。早期発見が難しく、症状が進行して腹水、胸水、息切れといった症状が出て、はじめて異常を自覚する人も多い。この段階では、腹腔内の臓器への転移がすでに起きていると考えられる。
1)PMSと生活習慣などの関連
森らは、成熟期女性のPMSとライフスタイルとの関連を調べるため、141名の成熟期女性を対象とした調査を実施。月経周期中の心身の変化に関する記録や、日常の生活行動(食事、ウインドウ、ストレス対処行動、社会的役割、ストレス経験)を調べ、PMSの主要症状であるイライラ、怒りっぽい、乳房が張るや他症候群とに関連や症状差が見られるか検討した。
すると、適正な食事を摂っている群とそうでない群では、月経随伴症状に差が見られた。また入浴習慣がある群は、月経前の乳房の張りが少なかったという。
また、子育てを楽しいと感じている群は、イライラなどの症状が少なかった一方で、社会的役割については、現在の職業や主婦という立場にやりがいを感じている群は、下腹部痛などの症状が多かった。後者の症状は、責任遂行の意欲が強く、負担をより大きく感じることが原因と推察される。生活で大きなストレスを感じる体験があったと答えた群も、下腹部痛などの症状が見られた。
PMS症状の軽減では、食事・睡眠などの生活習慣の改善、ならびに生活上のストレスへの対処が重要であることが、改めて示された結果といえる。
参考
・成熟期女性のライフスタイルとPMSとの関連についての検討(森 和代ら, 女性心身医学/9 巻 (2004) 2 号/書誌)
・月経痛・月経随伴症状と性格との関連性の検討(加藤 真二ら, 全日本鍼灸学会雑誌 70(2), 102-111, 2020)
・妊娠の生理学(MSDマニュアル プロフェッショナル版)
・性成熟期女性のライフス テ ー ジと心身症(片桐 由起子, 第54回日本心身医学会総会な らびに学術講演 会, 2013)
・子宮頸がんについて(がん情報サービス)
・子宮体がん(| 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会)
・卵巣がん(Doctors File)
・不妊症(公益社団法人 日本産科婦人科学会)