てんぐのノイエ銀英伝語り:第41話 矢は放たれた〜放たれた矢が貫くものは?
アメリカ大統領選の結果は衝撃的でしたが、あまりにも完全に勝敗が決まったので、かえってサッパリとした気持ちで今週のノイエ銀英伝を録画視聴してました。
と思ったら、かなり時事にマッチしてるサブタイトルにスリルを感じてしまいますが。
というわけで、今週のてんぐのノイエ銀英伝語りの時間です。
ノイエのヒルダはチョロくないぞ
予告動画のサムネイルになってるヒルダ嬢、かなり怒ってましたなあ。
アンネローゼ様のところに出かけてる間に事を全部進めてたってわかれば、「なんで私を除け者にするかな?」って思うのも無理ないです。
ついでに言うと、この後に原作や石黒版ではあった和解のサインめいた笑みも浮かべないのが、ノイエ版の良いところです。怒るべきときには怒って良い、少なくとも、その場で許す必要もないんです。
そして、ここで予定調和的なチョロさを見せないものが、ノイエで強調されるキャラクターの“自我”なんですね。
モルト中将の自決について
ある意味でラインハルトやオーベルシュタインによって死に追いやられた皇宮警備司令のモルト中将。
この人の死については、てんぐはちょっと前から「実はオーベルシュタインはかねてからモルト中将を始末する口実を探してたんじゃないか?」と勘繰ってました。
政治情勢の如何に問わず、帝国軍人はゴールデンバウム帝室とその象徴たる皇帝陛下に対して忠誠を尽くすべし。
古風な武人と称されるモルト中将がそう考えていたとすると、将来的に行われるラインハルトの名実ともなった簒奪に対して、「奸臣誅殺」という挙にでないとも限りません。
実際、ゴールデンバウム王朝初期には、“准皇帝陛下”とまで呼ばれた権臣が、時の皇帝の内意を受けて誅殺したという逸話もあります。
モルト中将のような古株の将官となると、あっちこっちの実戦部隊に昔の部下や戦友がいるということも考えられます。
これらの集団を一切刺激することなくモルト中将を体よく葬るには、ラインハルトの思い付き謀略は都合が良かったということは考えられないでしょうか。
腹芸のできる人狼、ノイエ版ミッターマイヤー
深夜というか明け方に召集されたラインハルト軍団の幹部会議ですが、一応でも幼帝を敬うワーレンと、「幼帝を盾にする気かもしれないけど無駄だよな」と一顧だにしないビッテンフェルトの対比がまず面白いです。
まあ、面白いというなら、いまだにラインハルト自身も含めて全員立っぱなしで会議やってるあの広間も面白いんですが。
というか、この元帥府ってどういう由来の建物なんでしょう。
どこかの貴族の屋敷を接収して、あの広間も本来はパーティ用のもので、テーブルや椅子がないのも「どうせ皆それぞれの部署で仕事して元帥府には滅多に集まらないし、わざわざいらないだろ」で用意されないままになってただけだとか。
さて。その幹部会議を終えた後に「うちで朝飯食って行けよ」とロイエンタールを誘うミッターマイヤーですが、ノイエだとその後に地上車へ場面が変わったことで、ちょっと印象が変わりました。
あれは言葉通りの意味だけでなく、「どうせ卿のことだからローエングラム公に対して何か言いたいことがあるんだろ?」「俺以外の誰にも聞かれない状況を作ってやるから、そこで言えよ」というサインだったんじゃないでしょうか。
その後の彼の軌跡を考えると、ノイエ版のミッターマイヤーって、腹芸もできる政治家適性持ちとしてデザインされているのかもしれません。
この後に訪れる展開でも、彼のその政治家適性、あるいはセンスは存分に発揮されます。それを考えると、このデザインは的を射ていますね。
フェザーンの百鬼夜行、というか、ルパートにドン引き
今週はフェザーンの百鬼夜行代表のルビンスキーとルパートの楽しい親子ドライブもありましたが、ルパートが親父の愛人ドミニクと密会してるのは、どの媒体で見ても毎度ドン引きなんだよなあ。出会いのきっかけは、例えば例の帝国軍諜報員を始末したときのような非合法活動に渡りをつけるときだったとして、その後にわざわざ親父への内心での当てつけで選んだんじゃないかなあ。それも、愛を囁いてとか禁忌感を煽ってとかじゃなくて、その犯罪行為の物証を押さえておいての脅迫とか、そういう手口で。
でまた、今回は今回でデグズビィを「手下にする」ための工作を依頼してましたし、それやこれやを考えると、前に記事にしたように銀英伝TRPGを作るならフェザーンをメインステージにしたシティアドベンチャー型にした方が良いと思えてきます。
でも、ノイエ見てると、「ドラクールのマダムからの依頼です」って言われた瞬間に「これ黒狐案件? それとも息子の方? 後の方ならおっかないから嫌だぞ!」とかPCが喚きだしそうです。そういうときは、PCの弱みを握っておきましょう。一番手っ取り早いやり口は、借金とかかな。面倒なPCは借金漬けする、これがTRPGのマスタリングの基本です。(ろくでもねえ)
それにしても、あの眼鏡外すと、ルパートって本当にルビンスキーとよく似てるのがわかります。本人に向かって言ったら陥れて利用してから始末するリストに入れられそうですが。
一方でルビンスキー。
ルパートがボルテック弁務官のチョンボを把握できていたのに比べて妙に眠たい反応しかしない姿を見てると、いよいよこの人がキレ者なんだか見掛け倒しなのか掴めなくなってきました。
正直記載するタイミングを掴めないので今するんですが、この幼帝誘拐をトリガーにした帝国軍による同盟併呑戦役を経由しての新銀河帝国の誕生支援と乗っ取り計画ですが、
以上、3点の前提条件が必須となります。でないと、どの道フェザーン回廊に帝国軍が押し寄せることになるからです。
そして、要塞戦(ノイエ版でもこの言い方するんですねえ)の結果として、その1.の段階で前提条件は止まっています。
なので、本来なら、最悪シューマッハ大佐やランズベルク伯を始末してでも計画自体をいったん凍結させる必要があります。
にも拘らず、ルビンスキーは幼帝誘拐と亡命政権樹立という、前提その2.を前倒ししてしまいました。これでは、フェザーン自治領という中立国家にとっての自殺行為でしかありません。
てんぐにすら気付くようなことが自治領主に分からないわけがないんですがねえ。
本当にルビンスキーも頭脳がマヌケなクチなのか、それともあえて危険な賭けを打ちたいギャンブラー気質なのか、それとも実は彼自身がフェザーン自治領という機構を他者の手で解体したかったのか。
さて、実際のところはどうなんでしょうねえ。
今週のエルウィン・ヨーゼフと幼児誘拐犯
フェザーン独立商船での移動中に暴れるエルウィン・ヨーゼフですが、今まではクルーが言うように「しつけができてないガキ」「山猫じゃないんだから」くらいにしか思わなかったですし、原作の地の文でもそんな目線でした。
でも、この“亡命”を幼児誘拐だって考えたら、エルウィンの行動は「誘拐された子供が必死に抵抗してる」っていう当然の反応なんですよね。
もしもエルウィンが「助けて! 僕をおうちに帰して!」という言葉で叫ぶことができたら、流石に船長も「ちょっと待て、これ亡命じゃないのか? 誘拐の片棒まで担ぐ気はないぞ!」と気付くかもしれません。
ところで、お気づきでしょうか。
今回、その幼帝誘拐犯の片割れであるシューマッハ大佐の姿が見当たらなかったことに。
ランズベルク伯は抵抗する皇帝陛下と苦情を申し立てる船長にオロオロしてましたが、ではシューマッハ大佐はどこにいたのか。
考えられる事としては、事は幼い貴族の令息を亡命させることではなく、当人の意思など無視したただの幼児誘拐でしかないと船長に気付かれたとき、即座に商船をハイジャックできるように動力室かブリッジなどの重要区画付近に潜んでいた、とかでしょうか。
ノイエ版のシューマッハ大佐って、そういうことをやりそうなタイプに見えるんですよねえ。