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てんぐの武侠ドラマ語り:有翡(10月13日からBS12で放送スタート)

 昨日の記事でもちょっと紹介しました武侠ドラマの有翡、昨日チャンネル銀河での放送が終了いたしました。
 いやあ、映画D&Dの触れ込みじゃないですが、「意外と面白いな」で最後まで自然と完走できる、そんな武侠ドラマでした。
 そして、チャンネル銀河と入れ替わりのように、10月13日から無料放送のBS12でレギュラー放送スタートです


有翡は良いぞ:武侠クラスタとしての視線

 ヒーローにせよヴィランにせよ、有翡に登場するキャラクターたちは、大別すると「若者」「先達」に分類されます。
 そしてこの物語のメインストーリーは、若者たちが成長または変質していき、それと同時にその道程で獲得した力で何をしていくかという問いへの回答です。これは金庸武侠式のビルドゥングスロマンと言っても良いかな。

 ダブル主人公の一人である周翡しゅうひはまさにそれを体現しており、刀法だけでなく人格や判断力が成熟していく様を見せてくれました。まあ、最初から最後まで、どこかその呼び名「阿翡」が示すように阿飛アフェイ=チンピラじみたガラの悪い雰囲気は抜けませんでしたが。

 一方で、「先達」に該当する古強者たちは、キャラクターとしては完成された姿として登場し、若者たちに道標を残していきます。この先達たちも、みんな良い味出してるんです。
 また、このドラマのメインヴィランである地煞山荘の大荘主沈天庶しんてんしょも若者たちの前に立ちはだかる壁として成長を促していた「先達」だった、そんな風にも見えます。その洒脱な雰囲気と重厚な迫力を持った沈天庶はてんぐも推してました。具体的には、後述する隋唐演義の煬帝さまくらいに。

 そんな「先達」と「若者」の間に立つのが、初登場時では素性不明、本名不明、門派および人間関係一切不明、「顔面が王一博であることが判明してるだけ劇場版パトレイバー1の帆場暎一よりは情報量が多いよね」ってくらい謎だらけのイケメンだった謝允、ダブル主人公の片割れです。
 陳情令などで見せた裏面の激情が雄弁に伝わる鉄面皮と寡黙さは裏腹の、コロコロとよく動く百面相と潤滑油をたっぷりと塗ってそうな舌のおかげで全く本性も本音もわからない、そんな謝允の姿を見てると、古龍武侠の「辺城浪子」の主人公だった葉開を連想しました。

 王一博の葉開、結構似合うような気がするなあ。

 また、このドラマの武芸者やこの人々が用いる武器や抱く武術観、築き上げた勢力、自らをも危うくするほどの矜持と激情は、どこかショウブラザーズの武侠映画、特に片腕必殺剣シリーズを彷彿とさせました。

 同時に、江湖の武人たちが結集した朝廷からも自立した別天地である周翡たちの四十八寨は、隋唐演義の瓦崗寨とも重なります。モデルとした時代背景も中世という共通点がありますしね。

 そしてこのドラマは、武侠初心者や未体験者にも大変に見やすい仕様になっています
 登場人物たちの行動や感情の導線、この社会における侠客や武人たちの立場なども丁寧に説明されてますし、視聴者がなにかを疑問に抱いてもほとんどタイムラグなしに登場人物が自然な形で口にして、自然な形で回答が出ます。
 こういうストーリーテラーとしての誠実さがあるドラマって、視聴者へのストレスも大幅に低減させてくれるんですよねえ。大変勉強になります。

 キャストも「この人、あのドラマで見たな」って面々が多いですし、この点は華流クラスタへの刺激になること請け合いです。

 そんなわけで、まずは武侠クラスタとしての推薦文がこちらです。

有翡は良いぞ:TRPGユーザーとしての視点

 今までこんな記事を書いてきましたから、どうしても有翡を見てると「モンクに飛び道具は禁物なんだよなあ、<矢返し>があるし」とか「あの多芸多才ぶりは絶対にバードだろ。あの口八丁は<チャームパーソン>だな」とか「ファイター:チャンピオンってこういう感じでも行けるのか」とか「なるほど、アダマンティンやミスラル相当の武具を作れる秘伝書かー」とか、そんな風にTRPGに見立てていました
 実際、映画D&Dのエドガンみたいに楽器で戦う強者も出てきまして、恐らく高レベル帯の呪文スロット消費での<サンダーウェイブ>相当の遠距離攻撃も仕掛けてきました。まあ、武侠じゃ割と定番ではありますが。

 こういったスキル面だけでなく、ダンジョンアタックも出てきますし、そのダンジョン内のギミックやトラップ解除のノウハウも登場してきます。

 そもそも、発生したクエストに望んでいくのは武侠もRPGも同様ですし、それに望むパーティはそれぞれ異なるスキルや能力または天分や天運を持った者同士で構成されます。
 そして、ここが一番肝心なのですが、このドラマのメインキャラのパーティに、ストーリー的な意味での足手まといやお荷物は一人もいないというところです。これは本当にストレスフリーでしたし、同時に「TRPGのセッションとはこうでなくてはならない」と心から思えました。

 最近はYouTubeの配信や映画などでCoCやD&D、そしてそれ以外のTRPGに触れる人も増えてきております。
 そんな流れでTRPGを知った人にも、この有翡を自分の好きなシステムに見立てながらご覧いただきたく存じます。

有翡は良いぞ:ラブロマンスとして

 公式サイトや予告動画を見ればわかるように有翡はラブロマンスでもあるわけですが、このドラマのロマンス要素は、見ていて本当に気持ち良かったです。
「喧嘩するほど仲が良い」を地でいくメインのふたりだけでなく、正統派の恋愛劇を見せるカップルもあれば、子供のように初々しいカップルもありますし、熟年男女のしっとりとしたり生々しかったりする恋愛模様も見られます。

 で、この手の恋愛模様って、「もうあなたしか見えない」モードにお互いに入っちゃって「お前ら、いま自分のクエストが何か忘れてねえか?」みたいに思わされることがしばしばあります。

 でも、有翡の恋愛模様にはそういうことはないんですね。「相手のことは大切だし今のクエストにもなってるけど、それしか見えないほど私の視野は狭くないし」と言わんばかりに、冷静な理性と状況判断力は残してくれてるケースが多く、恋愛感情だけが行動原理になってるキャラもほとんどいない。でも要所要所ではしっかりと、それぞれの愛情表現が素直に出てくる。

 こういう匙加減の恋愛模様は、見ていて実に爽やかですし、素直に祝福したくなってきます。

 そういえば、同じ中国ドラマの「家族の名において」も、そんなところがありましたね。

有翡は良いぞ:とにかく見よう

 という具合に有翡について長々と語ってしまったわけですが、今年上半期に見ていた天龍八部と、個人的には同じくらい面白かったです。

 もしBS視聴環境がないという方は、U-NEXTで配信中ですので、こちらででも是非ご覧ください。


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