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てんぐのノイエ銀英伝語り:第38話 決意と野心~ラインハルトという渦に振り回される人々


新章開幕! ……を告げるバラエティ丸出しのテロップ

 ノイエ銀英伝地上波放送も、今週から本格的に4thシーズン「策謀」編がスタートです。
 なので、これまでの振り返りがあるんですが……あの地上波バラエティ丸出しのテロップはどうなのよ? なんぼ日テレって言ってもさあ。
 実質タダでノイエ銀英伝見れてるしTverで見逃し配信もされてるから文句は言いたくないけど、作品との世界観が乖離しすぎてるんだよなあ。
 というわけで、腹が立つというより気恥ずかしいので、流石にあの下りは飛ばしました。正直見なくても理解できてるって話しかしてなさそうだし。

時代の中心に立ちつつある者とそれに振り回され続ける人々

 今週は、ラインハルトという時代の中心に立ちつつある特異な個人の姿と、その個人に振り回される人々の話でしたね。
 敗戦の報を受けた直後に厳罰を与えると宣言したミュラーに対しては当人を前に全面的な慰労の言葉と免責を与え、かと思えばシャフト技術総監に対しては罵声と共に一日で粛清する。
 視聴者から表面的に見れば“正しい”処置なんですが、問題は、それが結局はラインハルト個人の肚ひとつで決まってることなんです。
 また、ヒルダとの昼食で語った「権力とは譲られるのではなく奪われるべきもの」という発言も、帝国に議会も政党政治も存在しない上に、自らが軍事政権を率いる独裁者の言葉だと考えると、ラインハルトのテーゼとは、権力の移譲にすら制度化を拒否する究極の「人の支配」、法や制度や慣習というものの否定に立脚しているのではないか。そして、そんな極限までアナーキーな人物が時代の中心に立ちつつあれば、それに振り回される人々も増大していくわけです。
 ヒルダのラインハルトへの懸念、ロイエンタールの情念もまた、そんな時代の中心に立ちつつある人物に振り回されているのだとしたら、ケンプは使い捨てにされたというより、その大渦に振り回され飲み込まれた最初期のひとりということかもしれません。ケンプの遺族についてはそうでしょうねえ。ノイエ版だと本当に痛ましくてならなかったです。

シャフトスキャンダルとその背景と余波

 シャフト粛清の理由となった収賄と公金横領に加えて軍事機密の漏洩って、本当に「やってくれたな、このおっさん!」というところですね。軍高官、それも最もデリケートな情報を握ってる人物が、ですからねえ。
 考えてみれば、旧銀河連邦以来の、いわば人類社会の本土といえる地域を独占支配してる帝国に対して、軍事技術開発においても帝国ほどにはコストを掛けられず人口においても遥かに劣勢の同盟が抵抗できている理由はなにか。どこでどのように技術的なビハインドを埋めていたのか。このシャフト技術総監による機密漏洩は、その回答と言えるでしょう。
 そうだとすると、この情報源を閉じてしまったという事実によって、フェザーンが本気で同盟国家を損切りしてラインハルト政権による銀河統一(しかる後に経済面から乗っ取りをしかける)というプランを推進する気であることが伺えます。
 ただ、帝国軍の方でもこのスキャンダルによる大混乱は必至でしょうねえ。
 どうせシャフト個人でなく科学技術本部を牛耳っていた彼の派閥に属する子分たちも悪さはしていたでしょうし、だとしたら芋づる式に片っ端から失脚していくのは避けられません。そうなってくると、科学技術本部が過去と現在に関与した全ての事業や計画についての徹底的な捜査や監査が必要になります。
 ただでさえ内戦の残り火を鎮火させ続けることが最優先となる現在の帝国軍にあって、イゼルローン回廊という領域外での長期作戦行動に投入できるという意味での機動兵力の大部分を要塞対要塞の戦いで喪ったことに加えて、このシャフトスキャンダルですからねえ。
 ここからしばらく帝国軍は身動きが取れなくなる、はずだったのですが……。

フェザーンの黒狐とその息子

 ようやくノイエ地上波でも情報解禁と言って良いルビンスキーとルパートの親子関係、あの瞬間は緊迫感ありました。
 特にルパート、新進気鋭とも今どきの意識高い系とも言えるエリートの仮面がひび割れて、“父”なるものへの押し殺してきた怨念が噴き出そうとしていました。その具体的な例として挙げたいのが、自分の“父”だと認めた相手を「閣下」と、わざわざ強調して呼ばせるところ。ここに、ノイエ版の演出の冴えを感じました。
 ノイエ版のルパートって、決して好意は抱けないにしても、人間として理解はしやすくなったように思えます。
 この点、ドラマ版天龍八部の慕容復へ抱いた感情と少し似てるかな。感情の方向性は違うんですが。

 一方で、ルビンスキーの方ですが。
 この人の方は逆にノイエ版だと理解しにくくなった感じがします。
 というか、ぶっちゃけた話、この人って本当にやり手なんでしょうかね?
 
息子ルパートも内心で指摘していましたが、世襲ならざるフェザーン元首の座を掴むための実力や人望を獲得する時間を掛けていたわけでもないです。あの風格のせいでごまかされてますが、ルビンスキーって36歳の若さでその元首こと自治領主の座に就き、この時点でも43歳。政治の世界でいえば若造も良いところです。実際、就任以前はフェザーン議会に相当すると思われる「長老会議」なる集団の末席だったそうですし。
 そんな若造がなんで自治領主になれたか。ヒントになりそうなのは、彼の前任の自治領主であるワレンコフが地球教団からの自立を目論んで始末された(という説がある)ことです。つまり、地球教団が若きルビンスキーを見出したのは、その優秀さではなく、「自分たちが一番掌握しやすそうな人物」と見込んだから。
 であれば、フェザーンの黒狐の本質は、実はハッタリ屋だったということもあり得そうです。まあ、そんなルビンスキーもまた、地球教団ではなく自分自身の利益を最優先にしたいという欲はあるわけですが。

3章の締めくくりではなく4章の着眼点としてのヤン提督の訓戒

 ヤン提督って人は、直前まではダルダルのユルユルでユリアンに甘えてたダメ保護者だったのに、いきなり大事な訓戒を与える真摯な大人のモードに切り替わるんだから、実におっかないというかスリリングな人です。
 そんな彼の今回の訓戒は、「暴力機関である軍隊の本質、それは『支配し抑圧する手段』としての暴力だ」というものでした。
 今日のパートは、原作だと3巻の締めくくりとしてでした。石黒版でも要塞対要塞編の締めくくりという面が強かったです。
 でもノイエ版においては、第4章「策謀」編の世界観の中心、帝国で“良き統治”を行っているラインハルト政権の本質を改めて視聴者に対して示す、そんな意味もあるように思われます。

 ユリアンはまだ、「歴史を作る者」とは「英雄」である、という以外の世界観は抱けないでいるようです。そりゃまあ、無理はありません。あの王子様っぷりを見てると忘れそうになりますが、彼もまた軍国少年あがりの少年兵で、何より「英雄」と現在進行形で呼ばれる人と共に暮らしてるわけです。
 でも、ノイエ銀英伝においては、「歴史を作っていく英雄ならざる人々」に対してもスポットを当てていきます。
 我々視聴者は、ユリアンより一足先に、その着眼点に基づく銀河と歴史を見ていきましょう。

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