「サナギのしあわせ」を書いたときのこと(前編)
選考委員を務めている講談社児童文学新人賞の応募期限まで2ヶ月を切りました。応募を目指している皆様は、応募作の執筆は順調でしょうか。
ちなみに15年前、私自身がこの賞に応募したときは、期限の2ヶ月前にはまだ作品を書きはじめていないどころか、アイデアのかけらさえもなかったのですが…。
私は2008年に『サナギの見る夢』で講談社児童文学新人賞の佳作をいただいて、児童書作家としてデビューしました(諸事情で出版の順番が前後して、ジュニア冒険小説大賞の『ミステリアス・セブンス』のほうが第1作になりました)。
記事のタイトルにある「サナギのしあわせ」というのは、『サナギの見る夢』の応募時の題名です。この記事では現在講談社児童文学新人賞の応募作に取り組んでいる方々の参考になることを願って、その「サナギのしあわせ」を書いたときのことをお話したいと思います。
私が「サナギのしあわせ」を書いたのは、新人賞に応募を始めて2年目のことでした。
1年目に応募した講談社児童文学新人賞とジュニア冒険小説大賞とポプラ社のドリームスマッシュ大賞は見事に全滅。このときのジュニア冒険小説大賞は応募総数がたしか80作程度で、そのうち10作以上が残った二次選考にも残れなかったので、まあ箸にも棒にも引っかからなかったといえるでしょう。
ところが2年目に応募した講談社新人賞とジュニア冒険小説大賞は、両方とも賞をいただくことができました。1年目とくらべて、創作スキルが飛躍的に向上したというわけでもないのに。
それじゃあ1年目と2年目でなにが違ったのかといえば、おそらくそれは各賞の過去の受賞作をきちんと読んだのが大きかったのではないかと思っています。
じつは私は中学のころから、ほとんど児童書を読んでいませんでした。高校以降の主食はミステリとライトノベルで、ずっとライトノベル作家を目指していました(作品が書けなかったので、ラノベの新人賞には応募しませんでしたが)。
大学の卒業論文で、戦前の大衆的な児童文学をあつかったのをきっかけに、児童文学の新人賞に挑戦してみようと考えるようになったのですが、1年目は過去の受賞作どころか現代の児童書もほとんど読まないまま応募作を書いていました。小学校時代にはそれなりに児童書を読んでいたとはいえ、無謀にもほどがあるという話です。
2年目も相変わらずろくに児童書を読まずに応募作を書こうとしていました。しかし前年最後に応募したドリームスマッシュ大賞の落選通知が届いたあたりで、自分が書くものはなにか根本的に間違っているのではないか、と不安に駆られ、そこでようやく過去にどんな作品が賞をもらっているのか、実際に読んでみることにしたのでした。
試しに過去10年ほどの講談社新人賞の受賞作を図書館から借りてきてひたすら読んでみたところ、「あ、これじゃあ去年応募した作品が落選するのもしかたないわ」とすんなり納得できました。
1年目に書いた応募作も、児童文学っぽいものにはなっていたと思います。しかしそれはやはり、「ラノベ風味の児童文学もどき」とか「ジャンプ漫画のノベライズ風味の児童文学もどき」であって、歴代の受賞作の末席に加われるような、ちゃんとした児童文学になっていなかったことが、感覚的にわかったんです。
講談社新人賞を目指している方の多くは、普段から最近の児童書を読んでいるかと思いますが、それでも過去の受賞作をまとまった数読んでみると、得るものがあるのではないかと思います。
というのはべつに、受賞しやすい作品の傾向を読もうとか、過去の受賞作を真似ようとかいう話ではありません。ただ、過去の受賞作をある程度読むと、自分の書いているもの・書こうとしているものが、歴代の受賞作のラインナップに違和感なく加われる内容のものかどうかというのが、なんとなくわかると思うんです。
そういうイメージができる作品を書こうというのが、私の投稿2年目におけるもっとも大きな意識の変化でした。
もともとこの年の講談社新人賞には、学校の七不思議をテーマにしたラノベ風味の冒険ものを書こうとしていました(このアイデアの核の部分は、後に『ミステリアス・セブンス』で活用しました)。
しかし過去10年の受賞作をひととおり読んだあとで、この作品を形にしても、講談社児童文学新人賞を獲って出版してもらえるようなイメージができないな、と感じました。また、過去の受賞作を読むなかで、それまでほとんど読んでいなかったリアリズム系の作品に触れ、自分もこういうのを書いてみたいな、という気持ちも生まれていました。
そこでもともと書くつもりだった七不思議ものはやめにして、新たなアイデアを練りはじめました。意識的にそれまで書いてきたものとは違った作品にしようと考え、「魔法なし・超能力なし・妖怪なし・バトル展開なし・動物しゃべらない」という縛りのもと、リアリズム系の物語に初挑戦することにしたのです。
このときすでに講談社新人賞の応募期限までは残り40日を切っていました。そのかぎられた時間のなかで、どのように応募作「サナギのしあわせ」を執筆していったかは、長くなりそうなので次の記事でくわしくお話することにしたいと思います。