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彼女と『花火おじさん』
彼女があの『花火おじさん』に会ったのは……そう、うだるような暑い夏の日だった。
彼女は、迷っていた。
ゴールは決まっているのに、ゴールまでの道筋が決まらない事に、焦っていた。
自分の居場所は、ここではないのかもしれない。
夢なんて、諦めた方がいいのかもしれない。
頭の片隅には、いつもそれがあった。
そんな彼女に、『花火おじさん』は色々なものを見せてくれた。
たくさん、たくさん。
彼女が喜ぶものを。
彼女の喜びそうな姿で現れて、キザに気取ってみせたりもした。
『花火おじさん』はいつしか、彼女の乾いた心にちいさなぬくもりを灯していた。
それは決して、愛などではなく。
『花火おじさん』は、そのうちヒヨコを連れてきた。
可愛いヒヨコが好きなんだ。そう笑って。
彼女と『花火おじさん』の周りには、絶えず黄色くピヨピヨと愛らしい声が上がっていた。
『花火おじさん』は、そっと彼女に教えてくれた。
応援したい人がいる事。
大切にしている家族がいる事。
ある日の事。
『花火おじさん』は、
おじさんは素人だけど、お嬢ちゃんのために花火を打ち上げてあげよう。
そう言って、夜空にたくさんの花火を打ちあげた。
彼女にとって、夏は特別で。
彼女が今の道でやっていこうとがむしゃらにやっていたのが、昨年の事。
自分の力不足や経験不足、かといってどうしたら認めてもらえるものが作り上げられるのか、悩んでいたのが今年の夏だった。
『花火おじさん』は、言った。
良い子にしてたら、また来年の夏にくるからな。
彼女は笑顔で、
良い子にしてる!
と元気に応えた。
いつしか、『花火おじさん』は彼女の前へ現れなくなった。
『花火おじさん』が誰なのかを知る手がかりは、ない。
彼女は、思った。
また来年会える。きっと。
『花火おじさん』が嘘をつくはずがないから。
そして、彼女は凛と前を向く。
手から落としかけたマイクをしっありと握りしめて。
『花火おじさん』がくれたいろいろなものや、拍手。
それを忘れずに。
今は、彼女を『見つけた』人達の拍手に包まれながら、彼女は歌っている。